“世間”に傷つけられた人たちが、縁切り神社に託す願いとは?『流浪の月』で話題沸騰の凪良ゆう最新作!
2019/12/3
自分がされて嫌なことは、人にもしないようにしましょう。それはとてもまっとうな標語で、みんながその思いやりを心がけていれば世界は平和、のような気がしてしまうが、「私がされて嫌なこと」と「あの人がされて嫌なこと」は必ずしも一致しない。「私がされて嬉しいこと」と「あの人がされて嬉しいこと」も同じ。
だけど「その思いやり、全然嬉しくない。むしろ迷惑」なんて言おうものなら、拒絶した側が悪者になってしまう。小説『わたしの美しい庭』(凪良ゆう/ポプラ社)の語り手となる人たちはみんな、そんな善意のテロに少しずつ傷ついている人たちだ。
もともとBL小説を中心に活躍してきた著者の凪良ゆうさんが、ジャンルを超えて知られるようになったきっかけは2017年に刊行された『神さまのビオトープ』。その後、8月に刊行された『流浪の月』は文芸書売り上げ1位の書店が続出。世の中の“普通”から少しそれた人たちの繊細な感情が、ときに毒をまじえながら丹念に描かれるのが凪良作品の魅力のひとつで、それは『わたしの美しい庭』でも変わらない。
たとえば10歳の百音は、両親が事故で亡くなったため、母の元夫・統理にひきとられ2人暮らしをしている。当然、“なさぬ仲”の親子に周囲はあれこれ気をまわし、心配という仮面をつけてよけいな口を挟んでくる。39歳で独身の桃子もまた、心配だからという理由で勝手に見合いをセッティングされ、断れば贅沢といわれ、あげく向こうから断られ、むだに傷つくはめになる。うつ病で会社をやめた30歳の基も、「はやく元気になって働くのがいいこと」という世間の価値観や、それを当然と思っている周囲の労りによって、じわじわ追い詰められていく。
「どんな正義の矢も、千本射れば殺戮に変わる」と、統理は言う。マンションの屋上にある“縁切り神社”の宮司をしている彼の言葉はいつもフラットで、公正だ。自分がされて嫌なことではなく、相手がされて嫌なことを大切にする。それは、誰になんといわれようと切りたい縁があることを知っているからかもしれない。あるいは彼自身もまた、自分にとって正しいと思われることを貫いたせいで、元妻とすれちがい傷ついた過去があるからかもしれない。
いずれにせよ、悪縁を断ってくれる彼がそばにいるおかげで、百音はすこやかに育つことができるし、さんざん世間体に傷つけられてきたゲイの路有も、桃子も基も、自分は自分のままでいいのだと信じることができる。世間にとって普通じゃなくても、いいことと思ってもらえなくても、自分にとって大事なものだけを選んで、ちゃんと大事にできるようになっていく。
その過程を描いた物語は、読み手である私たちにも自分を守る勇気をくれる。悪縁を断つのは勇気がいるけど、残された縁をつないでいけばきっとその先で、自分を生かす希望に――かけがえのない誰かに出会えるはずだと、強く信じさせてくれる小説である。
文=立花もも
この記事で紹介した書籍ほか
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