“日本スゴイ”系番組の違和感、過剰な自己責任論ブーム…人気ツイッタラー・深爪が世の炎上事件をふりかえり、社会への疑問を斬る! 最新コラム集

文芸・カルチャー

2020/1/25

『立て板に泥水』(深爪/KADOKAWA)

 大人になって改めて触れた『ヘンゼルとグレーテル』は、義理の母より父親のクズさに驚愕したし、『泣いた赤おに』は青おにの優しさよりも大事にすべきひとを見誤った赤おにの愚かさが我が事のように胸に詰まった。世の中にはそんな、年を重ねてちょっと冷静になってみると印象がまったく変わる事象があふれている。『立て板に泥水』(深爪/KADOKAWA)はそんな気づきを与えて我に返らせてくれる、「言われてみれば!」や「だよね!?」がオンパレードな1冊だ。

 著者の深爪さんは、フォロワー数17.5万人(2020年1月現在)をほこる人気ツイッタラー。ご本人は、フォロワー数の多いただの主婦でありコラムニストという肩書には「ケツがムズムズする」と書いているが、『女性セブン』の連載を3年も続けている(それをまとめたのが本書だ)彼女は、まごうことなきコラムニストだ。冒頭に童話の例をあげたのは、本書で「織姫と彦星のはなしを久しぶりに読んだら〈覚えたてのカップルがサル化して堕落したあげく、偉い人にこっぴどく叱られるだけの話だ〉と気づいた。子どもに浸透させようとするのが理解できない」と斬り捨てていたからだが、「ああそういえば私も」と経験や記憶を喚起させられ、世の中に蔓延している空気、たとえば「七夕の逢瀬はロマンティックなものでしょ」というたぐいの集団的思い込みに気づかせてくれることこそ、コラムの役割だとも思う。

「日本スゴイ系番組が増えたのは東京オリンピックの問題点から人々の目をそらさせもりたてるためじゃないか」とか、「ベッキーの不倫がやたら叩かれたのは“いい子”の彼女に表立って言えなかった悪口を、みんながここぞとばかりに言いたがったからだろうけど、そもそもあれだけポジティブ発信をしていたのは、男に溺れると冷静さを失うような弱さをもった超ネガティブ人間だったからではないか」とか。他にも、レトルト食材の使用や満員電車のベビーカーに対する世間の非難など、さまざまな炎上案件をとりあげ、自己責任論が過剰な現代への疑問を呈する文章は「確かに!」の連続だ。

 的確な主観を述べるには、自分も含めて俯瞰して見る客観的なまなざしが不可欠なのだなあと本書を読んでいると痛感する。たいていは、本書にもあるように「だめなものはだめ」と決めつけ、自分を疑わなすぎるゆえに相手に理不尽な怒りをぶつけ、蔓延する空気から抜け出せない。だから深爪さんの文章を読むと、驚きとともに発見を得るのである。

 なんて書くとまじめな本に聞こえるかもしれないが、エロや恋愛、ドラマについての雑談の延長でまじめな話が入り込んでくるのが本書の魅力。コラムニストよりは主婦と自称しているように、深爪さんの話はすべて、あたりまえの「生活」の上にある。だからこそ、〈読んでいる最中はめちゃくちゃおもしろいが、読んだあとは心に何も残らない、みたいなモノがお送りできたら最高〉という前書きの言葉、まさにそのままの読み心地を得られることを保証する。

文=立花もも