食事は自分で調理、外泊もOK。受刑者をあえて自由に扱う刑務所は実現可能か?

社会

公開日:2020/2/23

『世界の刑務所を訪ねて 犯罪のない社会づくり』(田中和徳、渡辺博道、秋葉賢也/小学館)

 つい先日も、ある有名歌手が覚せい剤取締法違反の疑いで2度目の逮捕となった。こうした覚せい剤での再犯は有名人の場合メディアでよく報道されるが、実は薬物事犯だけでなく、日本で起きる犯罪のうち多数が再犯者によるものだ。言い換えれば、再犯者を減らすことができれば、犯罪を大きく減らすことにつながる。そのためのヒントをくれるのが『世界の刑務所を訪ねて 犯罪のない社会づくり』(田中和徳、渡辺博道、秋葉賢也/小学館)だ。
 
 出所後に再び罪を犯してしまうのは住居や職業の確保といった社会復帰が上手くいかないことが一因。そう語る著者らは、世界中の刑務所や社会復帰支援施設を視察し、ドラマや映画では知ることができない実情を目の当たりにし、ユニークな再犯防止策に行き当たったという。

500人の入所者が暮らす民間経営施設にはレストランまで!?

 アメリカのカリフォルニア州にある「デュランシー・ストリート・ファウンデーション」は職業訓練や教育を施し、社会復帰を支援する民間施設。施設内にはなんと、500人が暮らせる住居や小売店、レストラン、職業訓練所などが並ぶ。施設での飲酒や薬物使用は禁止。外出にも制限がある。

 入所者はここで大学レベル程度までのプログラムが用意されている教育を受けることができ、敷地内にある商業施設の運営や運送業などのビジネスにも携わる。日本の更生保護施設は政府からの委託費で運営されているが、この施設は政府からの助成を受けておらず、自らの事業による収入や企業・個人からの寄付金で運営経費を賄う。こうすることで入所者は「自分の手で何かを掴む」という実体験ができ、経営に関わるという責任感が芽生えるのだという。

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 日本でこうした施設を実現しようとしてもおそらく道のりは険しく、賛否両論があるだろう。だが、手に職をつけながら自立性も磨ける施設は、出所後の身の立て方を考える根本的な部分を生まれ変わらせてくれるように思える。

北欧の開放的な刑務所は、自宅に外泊も可能

 フィンランドのスオメンリンナ島にある「スオメンリンナ刑務所」は、受刑者に対して社会に開かれた処遇を行っている刑務所。

 受刑者には居室、共同スペース、キッチン、食卓などの設備が与えられ、シャワーやサウナの利用も認められている。食事は受刑者自ら調理する。与えられた金額の範囲内で食材を注文・購入するところから始めるのだ。こうやって経済観念を身につけさせることも、社会復帰トレーニングのひとつだと考えられている。

 そして、最も驚かされるのは、この刑務所が“開放刑務所”であるということ。閉鎖刑務所からこの刑務所に移ってきた受刑者は電子監視装置を装着し、施設内や島内を自由に行動できる。中には、島内の遺跡の修復作業や園芸作業に従事する受刑者もいる。薬物依存症やアルコール依存症の場合は刑務所と連携している医療施設で支援を受けられ、家族との面会のために市内に出たり、週末は自宅に外泊できたりする。

 こうした実情を知ると、「受刑者を懲らしめることができないのでは?」と訝しく思う人もいるだろう。だが、ヨーロッパでは、罪を償わせるための社会的制裁は自由を奪う「拘禁刑」という形で達成できると考えられており、1970年代頃から「懲らしめる」という考えは薄れてきたのだという。

 犯罪や事件の被害者感情を考慮すると、受刑者に対する意識をすぐ変えるのは難しいものがある。だが、海外の刑務所がどのような視点で受刑者と向き合い、再犯を防止しているのか知ることは、きっと日本の再犯防止にも役立つはずだ。

 近年増加している「刑務所に入りたくて罪を犯す再犯者」も、その原因は出所後の生活がままならないことに行きつく。だからこそ真剣に、出所後いきなり社会に放り出さないための仕組みや流れを考えていかねばならない。

 本書はこの他にもオーストラリアやジャマイカ、イタリアなどの刑務所の実態を収録。日本国内のPFI刑務所(民間の経営能力や技術を活用し、公共施設を建設したり運営したりするプライベート・ファイナンス・イニシアチブ方式の刑務所)についても詳しく紹介されているので、ぜひチェックしてみてほしい。

 犯罪のない社会――それを実現するには、罪を犯した本人の努力だけではなく、社会全体の努力も必要となりそうだ。

文=古川諭香