自殺寸前の自分を救ってくれた青年…身代わりを引き受けたら殺人の容疑をかけられて――衝撃のミステリーの読者の声は

文芸・カルチャー

公開日:2020/10/2

※「第5回 レビュアー大賞」対象作品

僕が僕をやめる日
『僕が僕をやめる日』(松村涼哉:メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 スクールカーストやいじめを題材とした『ただ、それだけでよかったんです』、少年法のありかたを問うた『15歳のテロリスト』など、社会的な問題を中心にすえた作風で知られる作家・松村涼哉氏。彼の作品はどれも重たい内容を扱っているはずなのに、どうしてこんなにも読む者を惹きつけるのだろう。それは、彼の作品から、少年少女たちの魂の叫びが聞こえてくるからかもしれない。ずっと世界から見過ごされてきた存在。今まで聞くことのなかった声。それに気づかせてくれる内容は、ページをめくる手を止めさせない。そして、読後に湧き上がる感情は、私たちの世界をも変えてしまうような強い力を感じさせるのだ。

 特に、松村氏による『僕が僕をやめる日』(松村涼哉:メディアワークス文庫//KADOKAWA)は、多くの人の心を揺さぶり続ける作品だ。この作品は、他人の人生を生きることになった青年を巡るノンストップミステリー。物語の中心として描かれるのは、若者の貧困、そして、無戸籍児の問題。現代社会の闇に鋭く切り込んでいく内容には、誰もが強い衝撃を受けるに違いない。

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 主人公は、立井潤貴、19歳。生活保護を受けている立井は、悪質な“無料定額宿泊所”で生活していた。彼は、生活保護費をピンハネされ、受給票も奪われ、職につくことも、痛めた腰を治すために病院に行くこともできない。

 ある時、明日の見えない毎日に絶望した立井は、自殺を試みようとする。だが、死のうというその時、高木健介という青年に命を救われた。「死ぬくらいなら、僕の分身として生きてみないか?」。この春から大学生になる高木は、売れっ子小説家で執筆に忙しく、立井に代わりに大学に通ってほしいというのだ。高木に言われるがまま、立井は、高木の代わりに、大学生の〈高木健介〉として生活することになる。

 しかし、2年が経ったある日、高木は突然失踪。そして、高木にはとある殺人の容疑がかけられており、立井は窮地に追い込まれてしまった。立井は、失踪した高木の行方と真相を追い求める。そこで立井が知ったのは、高木のあまりにも壮絶な過去だった。

 読書メーターユーザーは、この作品をどう読んだのだろうか。

伊予
「15歳のテロリスト」を読んで、松村さんにハマる。今作も重たい! しんどい! 辛い! けれど読むページが止まらない不思議な本。魂の叫び。

柘榴石
貧困、無戸籍児、DV…。本来であれば、祝福の中で生まれるべき子供たちの悲惨な状況。胸が痛い。名前の交換から始まった二人の青年の物語。この本は作者自身の書かなければいけない、書き続ける理由の一端が垣間見える気がする。

雪村
戸籍って日本に住むにあたりあって当たり前のものだと思っていた。当たり前に義務教育受けて、当たり前に私の人生の根にあるもの。世の中には知らなかったもの、見て見ぬふりをしてきたものが沢山ある。社会的に重いテーマを扱っているけど堅苦しくなく物語に集中させてくれる作家さんだと思う。

momi
現代の社会問題をテーマにし、作品自体はページ数が少ないのでサクッと読めるのに、重くて語りかけてくるものが多くて…切なくて…キリキリと胸をしめつけられる苦しさがありました…。こんなにも生きるってことは難しいものなの?貧困や無戸籍児問題…その先にあるものを知るとかわいそうでやるせないです…。

パウダーブルー
重いテーマで、衝撃的な場面もあり、いやぁ私って何も知らずに大人やってるんだなぁと思い知らされた。ぐいぐい物語に引き込まれ、読み終わっても現実世界へ戻って来れない。

かっぱ
なんて悲しくて、救いがなくて、ままならない物語なんだろう。それでも、この物語は一冊の本になった。この世界の誰が忘れても、きっと僕らは忘れない

天麻
ぐがががっ。また一気に読んでしまった。苦しいのと、しあわせになって欲しいのとでいっぱい。再び彼らが出会うことを、話をすることを祈る。

Alice
金銭問題と人間関係の悲劇を描いた作品だった。貧乏だった立井と高木それぞれの生きてきた道のりが複雑でとても悲しいものだと思った。金銭面に追い詰められる日々はどんどんと人を変えていくことを改めて思い知った。誰かを救う為に自分を犠牲にする、いつか誰もそんなことをしなくてもいいそんな世の中になればなと思わせるそんな物語だった。 みんながこの物語を1度読むべきだと思う。

 この世の中には、立井や高木のような、不遇な青年はどれほどいるのだろうか。この本を読むと、今まで自分がどれほど恵まれた生活を送ってきたのか思い知らされる。こんな身近に私たちの知らない世界があっただなんて。この本と出会わなければ、何も知らないまま、見過ごしたまま暮らしていたかもしれない。

 心に突き刺さる衝撃と感動。あなたもこの慟哭の社会派ミステリーを読んでみてほしい。現代の問題をまっすぐ扱った内容にあなたも圧倒されるに違いない。

文=アサトーミナミ

『僕が僕をやめる日』作品ページ

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第5回 レビュアー大賞

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