離婚した元夫と再会したのは、死んだ後の「天国行きのバス」! 温かな死生観に触れる『天国映画館』清水晴木の最新書き下ろし連作短編集【書評】
PR 公開日:2026/2/20

小説家・清水晴木氏。ドラマ化もされた『さよならの向う側』(マイクロマガジン社)や、「王様のブランチ」で話題になった『天国映画館』(中央公論新社)で、これまでも死について、そして死後の世界を描いてきた。そんな著者の最新作が『天国行きのバス』(中央公論新社)。死後天国へ行く人が乗るバスの中での、出会いと別れを描いた感動の連作短編集だ。
1人目の主人公は緑川佳奈。シングルマザーとして高校生の娘を育てている。ある日溺れている少女を助けようと海に入ったところで記憶が途切れ、気が付けば見たことのない場所にあるバスの停留所に。そこに止まったのが1台のバス。中から出てきた女性は自らを車掌と名乗り、このバスが「天国行きのバス」であることを告げる。
車掌の言葉で自分の死を確信した佳奈は現状について車掌に質問をぶつける。車掌曰く、死後の世界と一言で言ってもさまざまな世界があり、天国近くで目覚める者もいれば、現世に一度戻れるような不思議な扉のある空間にたどり着く人もいるとのこと。そしてこの世界にも出会いと別れがあることを車掌は伝える。突然のことに戸惑いつつも、受け入れるしかないと覚悟を決める佳奈。最初の停留所に止まると、佳奈にとってよく見知った男がバスに乗り込んでくる――。
そう、天国行きのバスは死後に誰かと再会するバス。死者のことを思い出した人間が意識・魂の状態になってバスに乗り込んでくるのだ。佳奈のところを訪れた最初の人間は元夫。涙の再会になるのかと思いきやそうはならず、かと言って憎しみをぶつけ合うことにもならず。別れてしばらく時間が経った男女ならではのやり取りがリアルだ。意識・魂の状態だからこそ、その人の深層心理や心の奥底が素直にあらわれるという天国行きのバス。ここでの時間は訪れた人にとっても、そして佳奈にとっても死を受け入れるのに必要な時間のように思えた。
私自身も子を持つ母。「もし自分が突然死んだら……」と考えたことももちろんあり、佳奈に感情移入して読んでしまった。とはいえやはり普段の生活は目まぐるしく過ぎていき、死を意識して後悔のない日々を送るのは難しいもの。本作はそんな人たちに自分自身の人生を振り返り、自分の人生について、周囲の人間について、改めて考えるきっかけをくれる。「生きることは誰かとの関係性があるということ」と、以前ダ・ヴィンチWebのインタビューで語っていた著者らしい、温かな死生観に包まれた作品だ。
短編は全部で4編。2編目の主人公は双子の弟がいる男性だ。そして3編目からは妻を亡くした男、親友を亡くした女の子と亡くなった側ではなく死んだ相手を忘れられずにいる側の人間が主人公となる。どの物語にも自分と似た境遇であれば感情移入して読めることはもちろん、そうでなくても登場するふたりの関係性に自然と自分をリンクさせながら読んでしまう。
最初に連作短編集と書いた通り、物語同士がリンクして最後のエピローグに繋がっていく一冊。ミステリー小説も手掛ける著者らしく、要所要所に伏線が張られ、「もしかしてこれって……」と考えながら読み進めることが本作の一番の醍醐味だ。しかし私は夢中で読み過ぎて、結末はまったく予想できず。そんな私でも「そういうことか!」と衝撃を味わうことができたので気になるところに戻るもよし、一気に読み進めるもよし。自分のペースで読んでいただきたい。
ちなみに中央公論新社文芸セクションのXアカウントによると、本作は『天国映画館』に連なる小説とのこと。ぜひとも併せてチェックを!
文=原智香
