震災、がん、戦争、孤独…それでも生きていく。世界の女性10名が逆境を超えた先に見た人生の「ひかり」とは?【レビュー】
PR 公開日:2026/3/9

きっと多くの人が、日々の暮らしの中で、誰にも言えない困難や不安を抱えて生きている。一方で、戦争や暴力、震災、貧困といった極限の出来事を実際に経験する人は決して多くないだろう。けれど、喪失感や孤独、無力さといった感情は、状況が異なっても私たちすべてに共通するものだ。
JICA(国際協力機構)内の有志メンバーが手掛ける「Hikari Project」の一環として編纂された『逆境の先に 世界の女性10名が紡ぐ”ひかり”の物語』は、戦争や震災、貧困、暴力といった困難に直面しながらも、しなやかに、そして力強く自分の人生を切り拓いてきた「普通」の女性たちの魂の記録だ。
「あなたがこれまでに経験した、一番の『逆境』は何ですか?」本書はこの問いかけから始まる。登場する10名の女性たちは、歴史に名を残す偉人でも有名な活動家でもない。私たちと同じように悩み、傷つき、時には明日への希望を見失いそうになりながら生きてきた、等身大の人々だ。
一杯のコーヒーがつなぐ、ホンジュラスと愛媛。絶望の淵で「人の縁」に生かされた人生
愛媛県伊予市の海辺で「カトラッチャ珈琲焙煎所」を営む今井英里さん。彼女の歩みは、夢への挫折、病、そして予期せぬ災害という、荒波のような日々の連続だった。
教職を志していた学生時代、教育実習で直面した自分の「人間としての器の小ささ」に悩み、今井さんはJICA海外協力隊としてホンジュラスへ渡る。そこで彼女の人生を変えたのは、一杯のフルーティーなコーヒーだった。苦いだけだと思っていた飲み物が、鮮やかな色を持って彼女の心に灯をともしたのだ。
帰国後、今井さんはホンジュラスの生産者を支援するために焙煎所を開こうと決意するも、現実は甘くない。20軒以上の専門店に弟子入りを断られ、さらにはバセドー病を発症。声も出せず立ち上がることもできない日々の中、追い打ちをかけるように人間不信に陥る出来事に遭い、開店資金のすべてを失ってしまう。「やっと動き出した未来が、またしても遠のいていくような、残酷な日々でした」。
そんな彼女を外の世界へ連れ出したのは、2018年の西日本豪雨災害だった。母の故郷を襲った災害に「せめて泥かきに行こう」と自分を奮い立たせたことが転機になる。そこで偶然出会った人の縁が、諦めかけていたお店の場所を提供してくれることになったのだった。
今井さんは、かつての自分と同じように苦しんでいる人へ「生き続けるためにひとまず逃げることも、向き合っていることになる」と語りかける。「今ここでなくても、自分の居場所は見つかると信じることが大切」……この言葉は、逃げ場のない孤独を感じている誰かにとって、一筋の救いの光となるはずだ。
「今日、やるべきことをやった」という確信
タイのウィアンポーン・センスワン(通称:プさん)の物語もまた、私たちの価値観を揺さぶる物語だ。彼女は最重度の聴覚障害を持つ息子を育て上げ、自らも癌(リンパ腫)という重病を患った。絶望的な状況下で彼女を支えたのは「今、この瞬間を生きる」という信念だった。「夜に死んで、朝に新しく生まれ変わるようだった」と振り返る彼女は、10年後の大きな目標を立てるのではなく「今日、やるべきことをやった」という小さな積み重ねにこそ価値を見いだしたのだ。成功とは、誰かに評価されることではなく「自分自身が納得して今日を終えること」そのシンプルな真理が、彼女の穏やかな微笑みとともに伝わってくる。
分断された世界を「物語」でつなぎ直す試み
本書には他にも、ウクライナから日本へ避難し「復興の担い手」として立ち上がるマリヤ・ボンダレンコさんや、ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争下で地下室を「教室」に変えたスミーリャ・トドロヴィッチ・ムルジャさんなど、国境も世代も異なる女性たちの物語が収められている。
彼女たちが直面する“理不尽な困難”の背景はバラバラだ。しかし、共通するのは「どんな暗闇の中でも、光を見つけることを諦めなかった」こと。Hikari Projectは、私たちが「違い」を超えて互いの物語に共鳴し、つながり合うことを提案する。遠い国の誰かが流した涙に、自分の人生の痛みを重ねる。その共感こそが、分断された世界を癒やす「小さな勇気」になる。そう、本書は説いている。
今、孤独に闘っている「あなた」へのエール
読み終えた後に読者の心に残るのは、彼女たちが発する温かくも力強い言葉の数々だ。「今ここでなくとも自分の居場所は見つかる」「私の弱点は、長所であり個性」「誰かを救おうとすることは、きっと自分自身を救うことにもつながる」……。
本書は、社会の期待や誰かの価値観の中で立ち尽くしている人へ贈る、ささやかなエールだ。10人の物語が、読み手の心にある「小さな光」を灯し、明日もう一歩だけ踏み出してみようと思わせてくれる。そんな不思議な力がこの一冊に宿っている。
もしあなたが今、人生で大きな壁の前にいるなら、ぜひ彼女たちの声に耳を傾けてみてほしい。ページの向こう側に、あなたにそっと寄り添ってくれる「光」が必ず見つかるはずだ。

書籍名:逆境の先に 世界の女性10名が紡ぐ“ひかり”の物語
内容:JICAの新規事業「Hikari Project」により制作されたインタビュー集。ジュエリーアーティスト、難民支援者、ジャーナリスト、町長など、逆境を乗り越えて生きる10人の女性たちの等身大な記録です。
「逆境の先に」は下記URLで公開されており、手軽に読むことができます。英語版も同時公開中。
「逆境の先に」URL
https://www.jica.go.jp/information/blog/1579092_21942.html
