「これ本当にフィクション?」ノートを読み進めると、ある町の謎が明らかに! 体験型ノベル『金輪町Logbook』【書評】
PR 公開日:2026/3/18

手にとった瞬間からドキドキが止まらない。装丁からして面白く、見た目はまるで1冊のノートだ。開くと、ノート風の横罫の紙に、横書きで高校生の体験談が綴られており、時には同じ町で暮らす住民からの書き込みや、はたまた、新聞記事の切り抜きや地図などの貼り付けもある。何が描かれているのかと読み進めていけば、町で起きている異常の数々に背筋が凍る。一体この町で何が起きているのか。怖くてたまらないのに、続きが気になって気になってしかたない。
そんな本が『金輪町Logbook』(前川知大:著、まごつき:イラスト/Gakken)。第32回読売演劇大賞・最優秀演出家賞を受賞した人気劇作家・前川知大氏による1冊だ。この本は、フィクションの物語を、あたかも現実の出来事のようにドキュメンタリー形式で演出する「モキュメンタリー」の形式で綴られ、没入感たっぷり。舞台となる金輪町とは、前川氏が主宰する劇団イキウメの作品でお馴染みの町だが、予備知識は不要。ページをめくれば本物の交流ノートを手にしたような気分にさせられ、あっという間に奇妙な世界へといざなわれてしまう。中学校以上で習う漢字にふりがなが振られているから、子どもも大人も、親子一緒に楽しめる作品だ。

このノートの書き手は、男子高校生の川端悠里。彼は、引っ越してきたばかりの金輪町という町の異常をこのノートに記録し、それを図書館の片隅に置いて他の町民からの情報も求めていた。悠里は、幼い頃から他の人には見えない奇妙なものが見える。悠里が世界の「バグ」と呼んでいるそれは、東京から金輪町に引っ越してからというもの、ますます多く見られるようになっていた。悠里が目にするものは、ただ「何だか不思議」と思わされるものから、声をあげたくなるほど不気味なものまでさまざま。たとえば、ある満月の夜に目にしたのは、鏡のように輝く田植え前の水田の、水面から浮かび上がってきた黒い泥まみれの塊。プールから上がるように疲労感たっぷりに地面へと降り立ったそれは、人間の形をしていた。虚無的で、ただただ邪悪で、呪われたような存在。そういう存在がこの町にはいる。

気味の悪いものが目の前に現れたとしても、それがこちらに何の害も与えないなら、まだいい。だが、水田の水面から浮かび上がってきた人型は、間違いなく、何か不吉なことを引き起こしている。その不気味な塊に触れた人間の顔はどろっと崩れ、顔の筋肉が弛緩し、口はだらしないほど半開きになり、よだれと鼻水、なみだを垂れ流した。その表情にあるのは、痛みや恐怖ではなく、忘我、恍惚、過度の幸福感……。ノートにはその様子が克明に記されているのが恐ろしい。その内容は具体的なのに、何が起きているのか分からない。得体の知れないものが目の前にあるという恐怖に戦慄する。

悠里は、同じ現象を目撃したクラスメイトの持田喜美や、お調子者の島忠とともに、町にある不思議な噂や怪談、未解決事件、都市伝説などを調べ始める。彼らを突き動かすのは好奇心ではない。特に、得体の知れないものに身近な人の命が奪われた経験を持つ持田は、自分に何かできることがあったのではないかという罪悪感と、もう二度と誰の命も失われてほしくはないという切実な願いから調査を進めようとするのだ。本書=ノートを手にすれば、3人の仲間になった心地がして、目の前に不気味なものが現れたような、自分もそれと戦わなければならないような臨場感に苛まれる。仲間たちの切迫感に引っ張られるように、心臓がうるさいほどバクバクと鳴る。そして、脅威が近づいてきた時、悲鳴をあげそうになる。
タイトルの「Logbook」とは元々は「航海日誌」という意味だ。悠里はこう綴っている。「大海原に乗り出した昔の人だって、その先に何があるかは分かってなかった。分からないから、進むんだ」と。訳が分からないものを分からないまま記録し、調べ抜いたこのノートを読み進めていけば、時に恐怖に震え、時に仲間たちの絆に胸が熱くなる。また、こうも思わずにはいられなかった——「どこからが現実で、どこからがフィクションなんだろう」。そんな新感覚のこの本を、現実とフィクションの境目が揺らぐ感覚を、ぜひともあなたも体感してほしい。
文=アサトーミナミ
