帝都に蠢く吸血鬼と戦う少女たち――大正ロマンの世界観で描かれるダーク恋愛ファンタジー『祓魔の双花は恋で薫る』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/4/7

祓魔の双花は恋で薫る
祓魔の双花は恋で薫る(卯月みか / 文藝春秋)

 『祓魔の双花は恋で薫る』(卯月みか/文藝春秋)は、大正時代の東京を舞台に、吸血鬼を狩る女学生たちの戦いと葛藤を描くダークな恋愛ファンタジー小説だ。

 桜花女学院に通う宇津宮椿輝と詠園百合香は、帝都警視庁退魔本部に所属する「退魔士」として、吸血鬼の捕縛と滅殺にあたっている。2人は百合香の兄の結婚披露宴で起きた殺人事件の真相を探っていくが……。

大正ロマンの世界観をベースに、恋愛もミステリーも楽しめる

 本作の最大の魅力は、大正という時代と吸血鬼の存在のかけ合わせが漂わせる、妖艶でロマンティックな世界観である。設定だけでも胸躍るが、これらに加え、正反対の魅力を持つ2人のヒロインが登場する。まっすぐで情の深い主人公・椿輝と、侯爵家の令嬢・百合香。女学院で“姫君”と呼ばれる彼女たちは、まさに物語に咲く二輪の花である。

 この2人のヒロインを中心に、秘密の恋、燃え上がる執着心など、恋愛的な要素もふんだんに楽しめる構成だ。イケメンによる「いきなりの顎クイ」など、ついつい胸が高まってしまうシーンもある。

 政府内部に黒幕がいる可能性が出てきてからは、謎解きと駆け引きに惹き込まれた。吸血鬼との戦闘シーンも緊張感があり、目が離せない。仮装舞踏会が舞台となるクライマックスは、この世界観や設定が最大限に活きる華やかさに彩られていた。だからこそ、水面下で吸血鬼討伐の作戦が遂行されるコントラストが活きる。

吸血鬼と人間の関係性に一歩踏み込む意欲的なファンタジー

 登場人物たちの関係性も複雑に絡み合う。なかでも椿輝とある友人との関係性は、もっとも胸に迫るものだった。

 本作における吸血鬼は、自らの意志とは関係なく吸血鬼になってしまうこともある設定だ。故に吸血鬼を抹消することが使命である椿輝は、「対峙した吸血鬼すべてが、必ずしも全員悪人とは言い切れない」という葛藤を抱きながら、吸血鬼と戦うことになる。

 半吸血鬼(人と吸血鬼の混血種)という存在も登場することから、この世界は人間と吸血鬼に二分できない。また、本作の重要人物の一人である女学院の国語教師・塚崎柊哉も、吸血鬼にまつわる重い過去を背負っている。そういった一人ひとりの背景から、勧善懲悪では割り切れない吸血鬼と人間との関係性を描いていることが、本作をさらに光らせているポイントだ。登場人物たちの心情の変化や、正義に対する迷い、誰かを強く想う気持ちなどが、物語に一層厚みを与えている。

 大正ロマンの華やかな世界観の裏で、人々の関係が否応なく引き裂かれていく痛みや、抑えられない醜い感情も描かれているため、ダークファンタジーの枠組みで捉えても楽しめる作品だと思う。読者を虜にする要素をふんだんに取り入れたうえで、椿輝というまっすぐな姿勢のヒロインを軸としてドラマティックに仕上げた、素晴らしい作品だと感じた。和風ファンタジーが好きな方、女性同士の友愛や深い絆を描く作品が好きな方には、特におすすめしたい。

文=宿木雪樹

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