井上咲楽の旅ごはんエッセイ「おいしい思い出」#4 ニュージーランドの星空の下で飲む、ホットチョコレート
公開日:2026/5/29

旅先で食べた一皿を思い出すと、その土地の風や音までよみがえることがあります。
見た景色、聞いた言葉、漂う音楽——それらが食べ物と溶け合い、心の中でひとつの風景を描き出す。食べることと旅することのあいだにある、やわらかな時間。そんな「味の記憶」から始まる小さな旅をつづったエッセイです。
#4 ニュージーランドの星空の下で飲む、ホットチョコレート
ニュージーランド2日目。6時に起床。寒くて布団でぬくぬくモゾモゾして、意を決して起きる。投資家の田中渓さんはもう起きて25キロ走り終えていると思うとうんざりした。
寒い。さっと着替えて外に出ると、もう外は明るくなっていて湖が美しかった。準備運動して走り出すと、冷たい空気がとても美味しい。山にはほんのり朝日が当たっていて、これからくる朝日の予感がした。白い霧も美しい。
少し走るとキャンプをしていた二人組が荷造りをしていて、挨拶する。7kmくらい走ったところで山の影から朝日が昇ってきた。起きてよかったと思ったら、「あーーーーー」というなんとも言えない声が出た。毎日行われている自然の営みをただ、今日私がニュージーランドに来て見ているだけ。ただそれだけで、この営みは日々行われているのだと思うと涙が出そうだ。
帰ってきて、水着を着て昨晩入った大きな湯船に再び浸かる。鳥が活発に鳴いていて、朝の気持ちよさがわかるんだなと思った。朝のお風呂もまたいい。
メイクして朝食。私はパンケーキを注文したがマネージャーさんのご飯が美味しそうだったのでせっせと5口くらいもらった。カリカリに焼かれたベーコンと、とろとろのポーチドエッグが美味しい。汗で流れた塩分を、補給できた気がした。
宿を後にして、トレイルのロードへ。ハイカーの方たちが大きな荷物を持って歩いていく。3泊かけて歩くコースもあるらしい。自然も素敵だったが、ガイドさんとの会話が楽しかった。マラソンのタイムに驚いてくれたので思わず自慢する。ニュージーランド特有の鳥にも会えた。30分歩いて引き返し、フォトスポットを散策しながら移動する。湖と陸の近さがすごい。小さい子の真似をして写真を撮影する。
ランチはソーセージロールというローカルの食べ物を食べてみた。ホットドックをイメージしていたが、想像以上に肉々しくて、ソーセージというよりは肉の塊をパンで包んでいるようなタフなパン。外でコーヒーと一緒にいただく。マネージャーさんが頼んでいた鹿肉のパイも味見させてもらったが、甘く煮た鹿肉がほろほろで美味しい。嫌な臭みもなく食べやすかった。
食事をとっていると、ガイドさんが「ニュージランドのプレデター(ポッサム、ネズミ、イタチ、フェレット、ノネコといった主に生態系を破壊する外来種の哺乳類のことを指す)はクモくらいかな」と話しかけてくれたので、「今年、日本は熊が多くてたくさんの人が被害に遭っています」と伝えると驚いていた。そして、ガイドさんに「安くて配れるお土産を探しています」と言いまくっていたら、お土産屋さんで値段を見せながら商品を持ってくるようになってしまった。ちょっと恥ずかしい。

