『ナースの卯月に視えるもの』最新作!他人の「思い残し」が視える看護師。看取りが前提のホスピス病棟で、後悔を抱える患者たちと向き合う【書評】
PR 公開日:2026/5/8

『ナースの卯月に視えるもの』(秋谷りんこ/文藝春秋)は、元ナースの著者によって描かれるヒューマン・ドラマ・シリーズ。累計14万部を突破しており、シリーズ5作目となる最新作『ナースの卯月に視えるもの 最期の贈りもの』が発売となった。
主人公のナース・卯月は、死を意識した患者の「思い残し」が視える特殊能力の持ち主だ。「思い残し」とは、不安や後悔などの思い残した感情が形を成したもので、卯月以外の人間には見えない。幼い頃離れた家族や、最愛の恋人など、姿はさまざまだ。その原因となる事柄が解決すれば、自然と消える。卯月はこの「思い残し」を通じて、入院患者たちの過去に触れていく……。
最新作で卯月はホスピス病棟勤務2年目を迎える。長期療養型病棟が舞台だった頃の卯月は「思い残し」の解消のため積極的に動き、失敗することもあった。一方最新作では、落ち着いた対応が多い。ベテランになった卯月が、看取りを前提とするホスピス病棟で、「思い残し」をどう捉えるのかが本作の見どころと言えるだろう。
「死」へのまなざしを通じて描かれる成長物語
職場の個性的な仲間たちにも、新しい顔ぶれが増える。作品の鍵となるのは、ホスピス病棟に加わるナース、神宮寺と泉である。神宮寺は変わった趣味や独特の喋り方から誤解を招きやすいが、患者のために真面目かつ素直な姿勢で働く2年目のナースだ。一方の泉は、すでに5年のキャリアを持つ即戦力で、テキパキとした仕事ぶりは周囲から一目置かれる。表情にあまり感情が出ないことで、理解されづらい一面もある。
死を待つ患者を想い、神宮寺は涙を流しながら「患者さんが亡くなることには慣れるものですか?」と卯月に訊ねる。そして泉は、心を開いた職場の仲間たちに対し、「死に近い仕事に就いていることを、家族からよく思われていない」と明かす。死を“穢れ”と捉える文化と、命を看取る現場に身を置く仕事は、切っても切れない。
対照的な新人2人と心を通わせつつ、患者の「思い残し」を視るうちに、卯月は「死」について考えを深めていく。
仕事と特殊能力、両方の経験値を重ねることで、卯月は人として成長し続けているようだ。目の前の問題だけでなく、本質的な問いに向き合っていく卯月の内面が、本作では特に印象的だった。そうした主人公の変化を読者が感じ取れるところも、シリーズ作品独自の面白さだろう。
「お仕事小説」としても充実感のあるシリーズ
「思い残し」という斬新な設定が印象に残りやすいが、本シリーズは純粋な「お仕事小説」としても楽しめることを紹介しておきたい。自身もナースとして働いていた作者・秋谷氏が紡ぐ文章には、現場の空気感と働き手の心情のリアルが凝縮されている。そこに加え、本シリーズには卯月の家族や恋人との関係性も織り交ぜられており、職場を飛び越えたナースの“生き様”を把握できる。医師や患者、同僚との関係、ワークライフバランスの取り方。さまざまな角度で職業理解が深まる点も、本書の魅力のひとつだ。
命について真摯に考え抜くプロへの尊敬の念が増す物語だと思う。そこに「思い残し」が視えるという優しい特殊能力が加わることで、涙があふれるシーンも多い。あたたかな人間ドラマとしても、お仕事小説としても推せる。ぜひ1作目から追ってみてほしい。
文=宿木雪樹
