21年待った「石球城」がついに! 北山猛邦「城」シリーズ最新作がもたらす極上のミステリ体験【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/5/25

「石球城」殺人事件
「石球城」殺人事件(北山猛邦/講談社)

「ウソだろ?まさか、あの『石球城』が本当に読めるのか……?」

 今、多くのミステリファンが喜びに打ち震えている。長いあいだ待ち望まれてきた、幻のミステリが、ついに刊行するからだ。その作品とは『「石球城」殺人事件』(北山猛邦/講談社)。著者は、『神の光』で近年のミステリ界を席巻した北山猛邦。そして本作は、彼の代表作「城」シリーズに、実に21年ぶりに加わる待望の新作だ。

「城」シリーズとは、美しくも不気味な閉鎖空間を舞台に、現実にはありえないような不可能犯罪を、徹底した論理で解き明かしていく本格ミステリシリーズ。その最新作として、かなり早い段階からタイトルだけ明かされていたのが『石球城』だった。しかしなかなか刊行されることはなく、いつしかその名はファンのあいだで“幻の城”のように語られるようになっていた。だからこそ、21年ぶりの新作となるこの本は、長年のファンにとってまさに待望の一冊。とはいえ、今までの「城」シリーズを読んだことがない人も心配はいらない。なぜなら、このシリーズは一作ごとに物語が完全に独立しており、過去作の知識がなくても楽しめるからだ。幻想的で不気味な閉鎖空間、大胆な物理トリック、胸を打つ忘れがたいラスト……。これまで北山作品に触れてこなかった人にとっても、『石球城』は格好の入り口になるはずだ。

 物語は、どこまでも続く雪原を旅する少年・ルーサが、ともに旅をしてきた仲間たちから襲われ、重傷を負う場面から始まる。意識を失った彼が目を覚ましたのは、見たことのない部屋のベッドの上。瀕死のルーサを助けたのは、少年・ロメリアだった。彼によれば、ここは壁で囲まれた城塞都市・石球城なのだという。何の意味を持つか分からない大小さまざまな無数の石球が散らばるこの街では、永遠に夜が明けない。太陽も月もないし、鳥は空を飛ばず、獣は吠えず、雪は降らず、風も吹かない。ルーサが生きてきた白い雪原とは正反対の、黒く閉ざされたこの世界は、九人の王が支配し、十三の灯台とそこに住む巫女によって保たれている。

美しくも不穏な、閉ざされた世界

 ページをめくりはじめてすぐ、長年のファンは思うだろう、「これぞ『城』シリーズだ」と。北山猛邦作品らしい設定と見取り図に、思わず笑みがこぼれてしまう。

 だって、まず、石球城という舞台からしてあまりにも魅力的だ。それは、神聖で、どうしようもなく不穏。石球城は、高い壁で覆われているが、壁には出入り口がなく、隙間さえない。すべての生活は壁の内側だけで完結するため、この街で暮らす人々は外に出たことがなく、200年の間、一度も外から来た人物はいなかったのだという。では、どうやってルーサはこの街に迷い込んだというのか。もう物語のはじまりから大きな謎が横たわっているのだ。

13の密室、13のトリック――灯台で起こる連続密室殺人

 しかも、そこでは、凄惨な事件が起こる。ルーサは自身の正体を知るため、ロメリアとともに、巫女・カヮクの灯台を訪れるが、そこで待ち受けていたのは、頭部のない首切り死体。灯台は密室だったというのに、一体誰がどのようにカヮクを殺したのか。遺体の頭部はどこにいったのか。巫女殺しの疑いをかけられたルーサは捕えられるが、今度はべつの巫女が首切り死体として発見されて……。おまけに、それは始まりに過ぎなかった。夜が明けない街の要ともいえる十三の灯台を守る巫女たちは、何者かによって次々と密室で殺され、この街にとってかけがえのない灯台の光が、巫女の死とともに、ひとつ、またひとつと消えていく。閉じた窓のある「初めの灯台」の密室、梯子のある「空気の灯台」の密室、扉の前に斧が突き立てられていた「蛇の灯台」の密室、跳ね橋のある「知性の灯台」の密室――13の密室、13のトリック。謎ばかりが、不気味に積み重なり、読み手の私たちまで、石球城というクローズド・サークルの中で、追い詰められていくような心地になる。

「物理の北山」が仕掛ける驚愕のトリック

 ファンタジックな世界で起こる密室殺人。それは、どれもが現実離れした不可能犯罪に思えてしまうが、もちろん、そんなことはない。そのトリックは、いずれも物理的な視点と奇想を掛け合わせたもの。さすがは「物理の北山」と呼ばれる北山猛邦が仕掛けたトリックだ。魔法のように思えた出来事が、クライマックスでは、美しくも冷徹なロジックによって鮮やかに解き明かされていくから圧巻。そして、密室連続殺人事件の真相は、石球城に隠された秘密、ルーサがこの街に迷い込んだ理由とも結びついていく。意外な犯人像にもハッと驚かされ、滅びゆく世界で、少年たちが抱く思いにも、胸が締め付けられる。

「ミステリが好きでよかった」と感じさせる極上の読書体験

『メフィスト』編集長であり、本作の担当編集でもある森田練さんは、この作品について「ミステリが好きでよかった――原稿を読んだときの素直な気持ちです」とコメントしている。読み終えたとき、その言葉に思わず、大いに頷いてしまった。ミステリが好きでよかった。この作品が読めてよかった。怪しげな世界、摩訶不思議な謎、驚愕のトリック、感涙のラスト……。こんな興奮は、こんな感動は、そう何度も味わえるものではない。

 さぁ、あなたも幻の石球城へ迷い込もう。そこで待っているのは、驚きと感動が押し寄せる極上の読書体験。「城」シリーズを長年追いかけてきた人も、この作品で初めて「城」シリーズを知る人も、読み終えたあと、きっと「ミステリが好きでよかった」と思うはず。暗闇の先で、忘れがたい光に出会えるこの作品を、あなたにも、是非。

文=アサトーミナミ

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