小泉今日子×小林聡美W主演ドラマ『団地のふたり』の続編が発売。50代独身、築60年の団地で暮らす普通の日常が教えてくれること【書評】
PR 公開日:2026/6/10

普通の幸せってなんだっけ――。忙しい日々の中をなんとかこなしていると、自分の心からそんな悲鳴が聞こえることがある。小説『団地のふたり』(藤野千夜/双葉社)はそんな時こそ手に取ってほしい、ヒューマンストーリーだ。
主人公の桜井奈津子と太田野枝(通称:ノエチ)は、共に50代で独身。2人は、保育園の頃から仲が良く、現在は築60年の同じ団地で暮らしている。いいところも悪いところも知り尽くしている仲は居心地がいい。奈津子たちは依存せず、互いの気持ちを尊重しながら、交流をより深めていく。
団地には高齢のご近所さんが多く、50代の2人はまだ若者。時にはご近所さんから、ちょっとした頼み事を持ちかけられることもあるが、奈津子たちは楽しく交流しながらご近所さんとの絆も深めていく。
そうした2人の暮らしぶりは、忙しい現代人の心に強く響いた。2024年、同作は小泉今日子と小林聡美のW主演でドラマ化。大きな反響を呼んだ。
そんな人気作の続編『また団地のふたり』(双葉社)でも、2人はマイペースな日常を送っている。52歳になった奈津子は相変わらず、本業であるイラストレーターの仕事よりもフリマアプリやネットオークションでの不用品売買に時間を費やす。ノチエも変わっておらず、奈津子の部屋を頻繁に訪ねては軽快なやりとりを繰り広げる。
本作には、前作に登場したご近所の人たちやノチエの兄が再登場。ふたまわり以上年下のジャズシンガーにハマったご近所さんの恋心を心配したり、50年前に別れた元カレの近況をネットで調べてほしいという頼み事を聞いたりと、奈津子たちは団地の住民たちとゆるく交流。そうした繋がりは現代社会では見かけることが少なくなっているからこそ、心に刺さる。
奈津子たちの日常には、派手なことや特別なことは起きない。何でもない日常の連続なのだが、2人はささやかな幸せを見つけ、毎日を楽しみ尽くすのが上手いのだ。
ご近所さんから「いちごが実った」と言われれば、団地の共同菜園へ行き、一緒に収穫。無邪気にTシャツの裾を広げて、好きなだけ収穫したいちごを自宅に持ち帰り、新鮮な果実のおいしさを楽しむ。
自宅で映画を見るというありふれた予定さえも奈津子たちにかかれば、心が弾むイベントになる。2人は奈津子の家で台湾のサスペンス映画を思いっきり楽しむため、その予定を「台湾映画祭」と名づけ、アジア食材店で台湾にゆかりがある食材まで購入。かつてお店で食べたことがある台湾料理を再現しながら、映画鑑賞を満喫した。
そんな2人の生き方に触れると、読者は「普通の幸せの尊さ」を思い出すことができるし、心の満たし方を学んだような気持ちにもなる。
幸せとは、なんでもない1日をどう過ごすかによって決まるのではないか。そんな哲学的なことを考えたくなるのも、本シリーズの醍醐味と言えるだろう。
また、50代の2人が寄り添い合って生きる姿に触れると、自分自身の年の重ね方にも想いを馳せたくもなる。年を重ねることは、老いに向かうということ。私たちはその過程をネガティブに捉えやすいが、自分の心を満たすことができれば、豊かに老いていくことはできるはずだ。
誰かと一緒に他愛のない会話をしたり、ご飯を食べたりする時間の価値に気づかせてくれる奈津子たちの日常は、年の重ね方に悩んだ時にも心に刺さるはず。“生きる”を全力で楽しむ2人の日常に、ぜひほっこりしてほしい。
文=古川諭香
