カジノに2億円、1泊160万のホテルに連泊。部下を拷問で服従。闇バイトの先駆けとなった「ルフィ事件」の真相に迫るノンフィクション【書評】
PR 公開日:2026/6/24

『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(栗田シメイ/講談社)は、メディアを賑わせた「ルフィ事件」の真相に迫るノンフィクションである。「ルフィ」を名乗る指示役のもと、SNSで集められた若者を中心とする実行役が、日本全国で特殊詐欺・強盗をはたらいた。本件は匿名・流動型犯罪グループ(通称、トクリュウ)の先駆けであり、「闇バイト」という言葉が誕生したきっかけでもある。
著者の栗田シメイ氏は、特殊詐欺において「かけ子(電話をかけて被害者を騙す役割)」を担った山田氏と、組織トップの右腕として暗躍した小島氏への取材を中心として、詳細なエピソードと共に、グループに関わった人々の背景や事件の流れを追っている。
1章では彼らの生い立ちが綴られている。なぜ人は「闇バイト」に手を染めるのか、あるいはどのようにして犯罪グループの幹部になっていくのか。その原点に迫っており、興味深い内容である。そして2章以降、ルフィグループの興隆から衰退までの記録が続く。同グループには、合理的に整えられた組織図と新人育成の土壌、そして体制を盤石にする戦略があり、まるでよくできた会社のようだとすら思えた。実際、語り手の一人である小島氏は事件を「案件」、詐欺を「ビジネス」と呼んでいる。この事件の恐ろしさは、関わった人々の中にある加害意識の希薄さにもあるのだろうと、個人的には感じた。
絶頂期のグループでは、幹部クラスは平均2000万円の月収を得ていた。そしてトップの渡邉氏は、毎日カジノに通い詰めて約2億円を投じ、1泊160万円のホテルに連泊していたそうだ。彼らの信じられない生活ぶりも、事件の被害規模を物語る一要素である。華々しい生活の裏には、資金の持ち逃げなどのトラブルや、部下を服従させるための拷問・暴力があった。やがて対立する別組織の存在をきっかけに組織は崩れていき、特殊詐欺グループから広域強盗団へと変貌していく。特殊詐欺で確立したモデルを強盗に置き換えたことが、さらなる悲惨な被害を生むことになった。
印象深いのは、取材対象である山田氏の姿勢である。彼女は自らを「伝説のかけ子」と称して詐欺の手腕に自信を持ち、組織内で性的に求められることを一種の武器として利用していたことも、ポジティブに振り返っている。また、ボスに対する畏敬の念や組織への愛着がいまだに残っているような発言も、たびたび取り上げられている。それほどにルフィグループは、何らかの事情で生活苦を抱える若者たちにとって、強烈な帰属意識を植え付ける組織だったのだろう。
特殊詐欺事件の被害は国内でいまだ続いており、SNSを通じた「闇バイト」の斡旋問題も深刻化している。不安定な経済状況の中で、これ以上犯罪に無自覚な加害者が増えてしまわないためにも、本書を多くの方に読んでほしい。事の経緯を読むと、特殊詐欺事件は、決して遠い世界の出来事ではないということを痛感する。事件の真相に迫るノンフィクションとして読み応えがある一方、人生が狂乱の坂道を転がっていくドラマとして読んでも余韻が残る一冊だった。
文=宿木雪樹
