犬猿の仲のはずが、気づけば「両片思い」? おひとりさま希望の令嬢と不器用すぎる騎士の、じれ甘ラブコメディ【書評】

文芸・カルチャー

PR 更新日:2026/6/8

この愛は、国王陛下のご命令じゃない~おひとりさま希望の令嬢ですが、不仲な騎士が離してくれません!~(ポプラ文庫ピュアフル)
この愛は、国王陛下のご命令じゃない~おひとりさま希望の令嬢ですが、不仲な騎士が離してくれません!~(ポプラ文庫ピュアフル)(秦朱音/ポプラ社)

「嫌なやつ」と思っていた相手が気づいたら「気になる人」に変わっていた。架空の王国を舞台にした、そんな王道の恋の物語に胸の高鳴りがおさえられない。ああ、恋ってなんていいものなのだろう。自分の本当の良さに気づき、傷ついた過去ごと受け止め、密かに自分を守ってくれる人。もし、そういう人が近くにいたとしたら……。

この愛は、国王陛下のご命令じゃない~おひとりさま希望の令嬢ですが、不仲な騎士が離してくれません!~(ポプラ文庫ピュアフル)』(秦朱音/ポプラ社)は、もう恋なんてせず仕事に生き、“おひとりさま”でいようと決意していた令嬢と、不器用騎士のドタバタラブコメディ。小説投稿サイト「エブリスタ」で大きな話題を呼び、各電子書店でヒットしている電子コミックの原作小説が、ついに文庫化されたのだ。しかもコミック版の漫画家・双葉アヤカ氏が装画と挿画を書き下ろし。その内容は、とにかくむずキュン。お互いのことが気になっているのに、顔を合わせれば言い合いばかり。そんな不器用なふたりの恋模様から、すぐに目が離せなくなる。

 舞台はメデル王国。ザカリー伯爵家の令嬢マリネットは、元婚約者の浮気と婚約破棄によって心に傷を負い、4年間引きこもっていた。だが、ただふさぎ込んでいたわけではない。ひとりで生きていくため、勉強にすべてを費やし、5歳の国王陛下・ジーク様の教育係の座を見事に勝ち取ったのだ。ところが、国王の護衛騎士として剣術や護身術を教えているのは、ザカリー家と敵対関係にあるヴェルナー侯爵家のご令息・ラルフ。ともにジーク様を支える立場だというのに、ふたりは顔を合わせるたびにいがみ合う犬猿の仲で……。

努力家でまっすぐなマリネットを応援したくなる

 どうしてラルフは、マリネットに対してこんなにも不機嫌なのだろう。初対面から彼は、些細なことで彼女の揚げ足を取り、「先が思いやられますね」なんて嫌味を言ってくる。その姿には、マリネットだけでなく私たちも思わず憤りを感じてしまうはずだ。けれど、マリネットはただ感情的に反発するだけではない。ラルフの厳しさは、ジーク様を守りたいという責任感の表れなのではないか。そう気づいた彼女は、腹立たしさを覚えながらも、次第に彼の姿勢を認め始める。嫌いだと思う相手のことも冷静に見つめ、自分の考えを改める。そんな聡明でまっすぐなマリネットだからこそ、私たちは彼女の新しい日々を応援せずにはいられない。

不器用すぎるラルフの一途さにむずキュン

 一方で、ラルフの態度にはどうにも引っかかるものがある。なぜラルフはマリネットに対してだけ、こんなにもつらく当たるのか。疑問に思いながら読み進めていけば、その胸の内が少しずつ明かされ、ラルフという男の印象は大きく変わっていく。実はラルフは、ずっと前からマリネットのことを知り、気にかけていたらしい。不機嫌な顔も、嫌味な言葉も、彼なりに彼女を思っての行動で……。「いやいや、いくらなんでも不器用すぎないか!?」――そうツッコミたくなるのに、その誠実さにはじーんと胸を打たれる。ラルフがまっすぐに想いを伝えればいいのに。マリネットもそれに気づければいいのに。距離が縮まりそうで縮まらないふたりのやりとりが、じれったくてたまらず、ページを繰る手が止まらない。

5歳の国王陛下による「なかよし作戦」が可愛すぎる

この愛は、国王陛下のご命令じゃない~おひとりさま希望の令嬢ですが、不仲な騎士が離してくれません!~

 そんなふたりの恋のキューピッドとなるのが、5歳の国王陛下・ジーク様だ。天使のように可愛らしく無邪気なジークは、言い合いばかりのマリネットとラルフを見ては、事あるごとに命令を下す。「ふたりとも、仲直りのぎゅーは?」「明日は、ふたりで手を繋いで僕の部屋にきてね!」。国王陛下の命令とあっては、ふたりも拒めない。けれど、元婚約者のせいで心に傷を負ったマリネットにとって、ジークの「なかよし作戦」はかなりの難易度。一方で、戸惑う彼女とは対照的に、ラルフはなぜかノリ気。犬猿の仲のはずのふたりが、手をつなぐ練習をし、月明かりの下でダンスをし、少しずつ心を通わせていく。その不器用な歩み寄りに、気づけばすっかり頬がゆるんでしまう。

 おひとりさまで生きていくことは、決して悪いことではない。自分らしく幸せに生きられるのなら、それはとても素敵なことだろう。この物語も、その生き方を否定しないから、読んでいて心地よい。けれど、ありのままの自分でいられる相手が、もしそばにいたら。好きなことも、傷ついた過去も、努力してきた時間も受け止めてくれる人と、ともに歩んでいけるとしたら――。

 会うたびに喧嘩ばかりしていたふたりが、ぎこちなくも少しずつ心を近づけていく。その一歩一歩がじれったくて、甘くて、ページをめくるたびに胸がキュッとなる。恋に傷ついた人が、もう一度誰かを信じてみたくなるまでの物語。むずキュンな恋にときめきたいなら、ぜひこの本を手に取ってほしい。今恋をしている人も、「恋なんて」と思っている人も。読み終えたあとにはきっとあなたも、「やっぱり恋って、いいものだ」と幸せな気持ちになれるに違いない。

文=アサトーミナミ

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