「ごめんな、俺が夫で」綾瀬はるかに思わず謝った大悟。“ハマっていない”からこそ成立した、唯一無二の夫役。映画『箱の中の羊』【レビュー】
公開日:2026/6/3

5月29日より『箱の中の羊』が劇場公開中。本作で重要なトピックは、何よりも『誰も知らない』や『万引き家族』の是枝裕和監督最新作であることだろう。
さらに、夫婦が亡くした息子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れるというSFかつファンタジーであり、その夫婦をお笑い芸人の千鳥の大悟と綾瀬はるかが演じることも、作品の要(かなめ)となっている。
是枝監督作の中では挑戦的な試みがされた“意欲作”と言えるが、同時にこれまでの作品にあった特徴が“地続き”であるとも思えたのだ。その理由をまとめていこう。
※以下、『箱の中の羊』の決定的なネタバレは避けていますが、一部内容に触れています。
大悟と綾瀬はるかの夫婦の価値観に「噛み合わなさ」がある

大悟が綾瀬はるかの夫役と聞いたときに、失礼ながら「似合わない」と思った方も多いのではないだろうか。大悟本人も大いに気にしていたようで、実際に綾瀬はるかに対面したときに「ごめんな、俺が夫で」と謝っていたそうだ。
とはいえ、綾瀬はるかは「えーそんな!」と笑顔で返した上、「とてもシャイな感じがしましたし、とてもすてきな方だと思いました」と第一印象を明かしており、その点では「実は相性が良いのでは?」とも思えるだろう。
一方で、劇中では「夫婦間の価値観の齟齬」がはっきり表れている。綾瀬はるか演じる妻は亡くした息子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れることに好意的かつ積極的だが、大悟演じる夫はその企業のやり方に「霊感商法」を疑ったりもするし、いざ迎え入れたときにも「わしは、君のパパではない。おじさんでええよ」と自ら“壁”を作るような言葉を口にする。
つまりは、綾瀬はるかと大悟が夫婦に見えないことも、劇中2人の価値観の「噛み合わなさ」に絶妙にシンクロしているのだ。是枝監督作では「劇映画なのにドキュメンタリーのように思える」リアリズムが見どころとなるが、今回はキャスティングからその魅力が表れていると言っていいだろう。
大悟は高級住宅が似合わないことも含めて「ハマっていないことがむしろハマっている」
さらに、劇中で綾瀬はるかが演じるのは建築家でもあり、夫婦で高級住宅に住んでいる、というのも重要だ。大悟は庶民的で親しみやすい印象のあるほうなので、またまた大変失礼だが「高級住宅よりも四畳半ワンルームのボロアパートに住んでいるほうが似合うなぁ」と思ってしまった。
しかしながら、実際に劇中でも、大悟は高級住宅の広々とした空間を「持て余している」印象があるし、「カップ焼きそばを食べようとして、シンクにお湯を捨てるときに“ベコッ”と音が鳴る」という「貧乏くささ」を体現しているようなシーンもあったりする。
つまり、大悟が綾瀬はるかの夫というだけでなく、高級住宅が似合わないことも、意図的なものなのだろう。矛盾をした言い方ではあるが、今回の大悟というキャスティングは「ハマっていないことがむしろハマっている」のだ。
