「ごめんな、俺が夫で」綾瀬はるかに思わず謝った大悟。“ハマっていない”からこそ成立した、唯一無二の夫役。映画『箱の中の羊』【レビュー】

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更新日:2026/6/9

大悟は福山雅治が「父親に見えない」ことも連想する

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro
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 このキャスティングの妙は、2013年の福山雅治主演作『そして父になる』も思い出す。同作で福山雅治は初めての父親役だけに懸念があったため、是枝監督に「とにかく父親に見えないと思うので、大丈夫ですかね」と聞くと、「全然、大丈夫です。父性を獲得するというテーマなので、むしろ最初からそんなにすごくいいお父さんに見えていないほうがいいと思うので」と返されたらしい。

 『箱の中の羊』の大悟は『そして父になる』の福山雅治以上に、「(息子の姿をしたヒューマノイドの)父親になれそうもない」と、映画を観ている観客に思わせる役柄なのだ。初めに父性を感じられないことがプラスになるという点でも、やはりハマっていないことがむしろハマっているキャスティングと言える。

大悟の純粋さを引き出した是枝監督のスタンス

 そんな大悟だが、試写で本作を鑑賞した人からは、「演技がめちゃくちゃ良い」「自然体なのが素敵すぎます!」「表情のひとつひとつに何度も心を動かされた」などと絶賛の嵐。筆者も完全に同意見で、実際に観てみれば、「大悟の演技に思えないほどの演技の自然さ」が最大の見どころだった。撮影中にクセで出てしまった一人称の「わし」もそのまま採用されている。

 ネタバレになるので詳細は秘密にしておくが、終盤で大悟があることに“固執”してしまう時の演技が特に素晴らしかった。それは客観的には「大人気ない」「冷静じゃないな」と思う一方で、「そうなってしまうのもわかる」と同情も禁じ得ないものだった。「感情を隠せずに爆発させてしまう」というのも子どもっぽいので、その点でも是枝監督の演出が大きくプラスに働いたと思うのだ。

 ちなみに、是枝監督自身は大悟のキャスティング理由について「存在感があり、歩き方が独特で、人間味があってすごくいい顔をされています。70年代の日本映画界にいた俳優さんのような顔だなと」「芸人さんやミュージシャンには勘が良く、間合いの取り方がうまく、掛け合いのお芝居が上手な方が時々いらっしゃいますが、大悟さんはまさにそうでした。勘が当たりました」と答えている。

 まさにその通りの「70年代の俳優のような渋めの魅力」を今回の大悟には感じるので、その点でも楽しみにしてほしい。

「ヒューマノイドであるからこその機械的な不自然さ」も醸し出していた

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro
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 さらに、ヒューマノイドの姿をした息子役にオーディションで200人以上の中から選ばれた桒木里夢は、「『自分らしくやっていいよ』と言ってくれて、あまり指示を出さない人でした」 と是枝監督について語っていた。

 そのおかげか、是枝監督らしい「自然な子役の演技演出」が、今回の『箱の中の羊』では「ヒューマノイドであるからこその機械的な不自然さ」という印象にもつながっていた。

 前述した大悟が「ハマっていないことがむしろハマっている」ことと同様に、「演技が少しだけ不自然に思える」様もむしろヒューマノイドの子ども役にはマッチしており、是枝監督の「最小限の指示」が最大限の結果を生んでいたと思うのだ。

『空気人形』と共通する「代用品」としてのモチーフ

 ヒューマノイドというSFを題材とするのは是枝監督作の中では珍しく思えるが、2009年の『空気人形』でもラブドールが動き出して意志を持つというファンタジー作品を手がけていた。

 その『空気人形』のラブドールが女性の「代用品」であることが物語の大きな焦点になっていたように、今回の『箱の中の羊』はヒューマノイドの息子もまた代用品、いや“嘘”や“ニセモノ”の存在にも思えることが、複雑な思考を促しているとも言える。

 また、是枝監督自身は『箱の中の羊』では「子どもを失った夫婦のグリーフケア(大切な人やものを失った深い悲しみを癒すこと)の過程」を描いていると明言しており、今回は「ヒューマノイドと一緒に未来を作ることができる、という捉え方もできるんですよね」と、ヒューマノイドそのものをポジティブに捉えるような言葉を告げていた。今ではAIの功罪が話題になりやすいが、その善悪を観客に簡単にはジャッジさせないのも、是枝監督らしさだろう。

『星の王子さま』からの引用も

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro
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 また、『箱の中の羊』のタイトルがサン=テグジュペリの名作小説「星の王子さま」の一節に由来していることを踏まえると、本作はより味わい深くなるだろう。

 是枝監督は実際に『星の王子さま』を読み直し、「人間には本来、箱の中身に思いを巡らせる想像力があったはずなのに、今やすっかり失われてしまった。そんな人間の退化を尻目に、おそらくAIは人間を取り残していくのでしょう、子どもが親離れするときと同じように」と考えており、その思考はクライマックス以降の展開に密接に絡んでいる。

 ただ、正直に言って『箱の中の羊』のラストは、キャラクターそれぞれの行動原理が納得しにくく、ファンタジー設定と現実的な倫理観が噛み合っていない印象があり、賛否両論を呼ぶだろう。

 だが、ラストの是非も含めて議論・考察することもまた面白いし、大悟の演技を筆頭とした魅力がもはや唯一無二であることも事実だ。ぜひ、劇場で見届けてほしい。

文=ヒナタカ

<第7回に続く>

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