中島健人主演でNetflixドラマ化決定!『SとX』が映す、現代の「性」に潜む痛みのリアル【著者インタビュー】
公開日:2026/6/23
――続編として連載が始まったことで、アプローチや描き方の面で前作から変化した部分はありますか?
多田:やっぱり変わりましたね。続編は、先ほどお話しした日本性科学会さんに取材協力や監修をしていただいていて。また「ネット被害」の回では、子どもの性被害防止に取り組む民間団体「ひいらぎネット」の代表・永守すみれさんにも取材させていただいたんです。
――1〜4話にわたって描かれていた「ネット被害」のエピソードは大きな反響を呼びました。読んでいて、ここまで巧妙化しているのかと驚かされた読者も多かったと思います。
多田:そうなんですよ。現代のネット被害の実態や、子どもたちがどういう被害に遭っているのか、AIの登場でどんな被害が増えているのか……。そういうお話をたくさん伺って、私自身本当に知らないことだらけでした。
親や大人がすべてを把握するのは難しい時代で、その一方で加害側もあらゆる形で子どもたちを取り込もうとしている。こちら側が手口や情報を更新し続けない限り、誰もが被害に巻き込まれ得るんだという怖さを、取材を通してすごく感じたんです。もう「見せないようにする」「触れさせないようにする」だけでは防げない時代なんだな、と。


――取材を通して、被害の実態がより具体的に見えてきたと。
多田:実際に取材できたことで、ネット被害の実態をよりリアリティのある形で描けたのは本当に大きかったですね。
あとは、前作を描いていた頃と、続編を描いている今の自分とでは、性というテーマへの向き合い方自体も少し変わったと思っています。私はもともと性に対して強い思いがあるからこそ、この題材を選んだ。だから当時は「もっとみんな真面目に捉えるべきだ!」と、ある種の憤りを抱えながら描いていた部分も大きかったんです。
――強い思いがあるからこそ、描いているうちに加害者側のキャラクターへの怒りも強くなっていきそうです。
多田:作中で扱っている事件ひとつ取っても、加害者側に「なんでそんなことをするんだろう」って強く感じますし、正直なところ感情的になることもありました。もちろん怒ること自体は大事なんですけど、その感情に引っ張られ続けると、自分自身が描き続けられなくなってしまうとも感じるようになって……。性加害のシーンを描くこと自体、怒りだけで向き合おうとすると本当に苦しくなってしまうんですよね。
――怒りだけでは、描き続けられないと。
多田:それこそ『SとX ~セラピスト霜鳥壱人の告白~』で盗撮のエピソードを描こうとした時、最初はなかなか筆が進まなかったんです。でも当時の担当編集さんに、「社会問題として確実に存在しているものだから、扱ったほうがいい」と後押しされて。それで、覚悟を決めて調べ始めました。その経験を通して感じたのは、まず目を背けずに知ることの大切さでした。その上で、怒りだけにとらわれるのではなく、“向き合い続ける姿勢”でいないと、こういう問題を描き続けることはできないんだろうなと思ったんです。
――向き合い続けるという姿勢は、まさに霜鳥先生そのものですね。特に「ネット被害」のラストで犯人に投げかける言葉を思い出しました。
多田:そういった思いもあって、主人公である霜鳥は、自分の感情を相手に支配されないような人物像にしたんです。もちろん彼も感情的になることはあるんですけど、怒りだけでは自分自身も救われないし、相手を変えることもできない……。結局人が分かり合うためには、対話を諦めないことが必要なんじゃないかと思うんです。だから「ネット被害」のエピソードもああいうラストになりました。
