真山仁が「ロッキード事件」の取材から紡いだ、陰謀スパイ小説。抗えぬ権力の波の中で、人はどう生きるか──重厚な社会派サスペンス【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/7/15

シャドーゲーム
シャドーゲーム(真山仁 / 文藝春秋)

 『シャドーゲーム』(真山仁/文藝春秋)は、ロッキード事件をベースに描かれた陰謀スパイ小説である。大人気経済小説シリーズ「ハゲタカ」の著者でもある真山氏は、2021年、ロッキード事件の真相に迫るノンフィクション大作『ロッキード』を世に出した。その膨大な取材から得た情報をフィクションに落とし込み、エンターテインメント作品へと昇華させたのが本作である。

■日米間の暗部を明るみに──大規模な陰謀を追体験

 1974年、アメリカ大統領のアーノルド・ヒクソンが辞職したところから物語は動き出す。政界のキーパーソン、CIA、メディアの記者など、それぞれの立場に政治的な動きと波紋が広がっていく。一方、日本では山本源太総理が窮地に立たされていた。

 戦後、日米間では歪んだ状態が続いていた。戦争の勝敗によって決定づけられた強弱関係に基づき、アメリカは日本に対して暗黙の支配を続けていたのである。国益と正義を守るためならば、水面下で非合法な工作も行われていた。

 そういった時代背景を踏まえ、本作では大規模な裏金工作、日本の政財界をコントロールするために行われてきた暗殺や脅迫、そして真相を覆い隠すために罪を背負わされる身代わりといった数々の陰謀に迫っていく。

 日米両国のさまざまな立場の人物の視点をたどることで、読者は事件の中で複合的に絡まり合う利害関係と人間模様を、時系列で追体験することができる。

■現代に通じる課題意識で、実際にあった事件を切り出す新感覚の物語

 本作の見どころは、山本総理が追い詰められていくプロセスにある。スキャンダルによるアメリカ大統領の辞職というニュースが世界中を震わせたことも影響し、山本総理の印象を操作するためのメディアの扇動と、それに対する世論の反応は次第に膨れ上がっていく。真実を追求するよりも、わかりやすい物語と叩きやすい存在をつくることを優先してしまう社会には、恐怖を感じる。

 その恐怖は、決して過去のものではない。1970年代当時は存在しなかったSNSが、情報の即時性と波及力を高めた。真偽を確かめられていない情報を、人々は都合よく解釈し、意見を重ねている。事実が歪められてしまう危険性は、今のほうが高いかもしれない。

 ロッキード事件を下地としている一方、そういった現代にも通じる問題を投げかけているところが、本作の魅力だと思う。淡々とドライに動きを追っていく筆致でありながら、登場人物の人間性や胸の内がひしひしと伝わってくる。だからこそ、渦中にあった人々に想いを馳せずにはいられない。

 ボリュームとしては重厚だが、一気に読ませるエンターテインメント性も高い作品だった。個人的には、抗いようのない大きな権力の波の中で、一人ひとりの人間がどう生きるか問う人間ドラマとしても楽しめた。ノンフィクションや社会派サスペンスが好きな方には、特におすすめしたい一冊だ。

文=宿木雪樹

あわせて読みたい

シャドーゲーム