19世紀英国の寄宿学校で、名門貴族の子息と秘密を抱えた訳あり転入生が名バディに! 学校の闇に迫る怪奇ミステリー『グレンデル寄宿学校のふたり』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/7/15

グレンデル寄宿学校のふたり
グレンデル寄宿学校のふたり(峰守ひろかず / ポプラ社)

 寄宿学校という場所には、どうしてこんなにも秘密が似合うのだろう――。

 ロンドン郊外にあるグレンデル寄宿学校。そこは家族のもとを離れた少年たちが、同年代だけで暮らす閉ざされた空間だ。15歳のノエルは、訳ありげな転入生サモンと同室になる。寮長グループとのトラブルがきっかけで、校内をざわつかせている“悪魔の足跡”を追跡することになってしまい……。

 19世紀英国を舞台にした怪奇ミステリー『グレンデル寄宿学校のふたり』(ポプラ社)。作者の峰守ひろかずさんは、これまで日本の妖怪や怪異を題材にした作品を多く手がけてきた作家だ。本作ではそのまなざしを海の向こう、ヴィクトリア朝の英国へと向けている。産業革命が進み、古い貴族社会がゆらぎ、心霊主義や秘密結社、都市伝説めいた怪異が人びとの想像力を刺激していた時代。合理と非合理、近代と前近代がせめぎあうこの時代ほど、怪奇ミステリーにふさわしい舞台はないかもしれない。

 ノエルは名門貴族の子息でありながら気弱で、暴力的な寮長にお金をせびられても逆らえない。一方のサモンは度胸があって頭がよく、武術の心得もある。そんな正反対の二人がルームメイトになることから物語ははじまる。

正反対の二人が「運命共同体」に。協力して怪事件に挑む!

「ここではルームメイトは運命共同体だから」

 その言葉に倣うように、二人は協力して怪事件に挑む。

 生徒を襲う首なし妖精、テムズ川に生息するカエル人間、ロンドンの夜に暗躍する吸血鬼……。いかにも超自然的な存在そのものが主役になりそうな題材が次々にあらわれるが、そこは峰守ひろかず小説。怪異をただの怪異として終わらせるはずもない。ノエルとサモンは噂や恐怖の奥に隠された真相を探りながら、やがてこの学校の抱え込む“秘密”そのものに接近していく。

 ちなみにサモンもまた大きな“秘密”を持っている。 オランダからの転入生というのは仮の姿で、とある重大な目的のために、動乱のただなかにある遠方の故郷から、単身、英国へ渡ってきたのだった。

 伝統的な貴族社会の内側にいるノエルと、その外側からやってきたサモン。二人をとおして英国の階級、社会、近代化の光と影が自然と浮かびあがってくる。さらに実はノエルもまた、サモンには絶対に知られたくない“秘密”があるのだが、ネタバレにつきここでは明かせない。

身分、国、立場が異なる二人。脇を固める魅力的なキャラクターも

 とはいえ本作は歴史や伝奇の知識がなくても軽やかに読める。気弱――それはとりもなおさず優しいということでもある――だが聡明で誠実なノエルと、気丈で抑制的でありながら、どこか危うさも抱えたサモン。身分も国も立場も異なる二人が同じ部屋で寝起きし、食卓を囲み、事件に首を突っ込んでいく。その距離の近さがなんとも楽しい。ゴースト好きの図書館司書パトリックや、怪しげな情報を提供してくれる校内新聞の記者レビなど、脇を固めるキャラクターたちとのかけあい(とその正体)も軽妙だ。

 寄宿学校の闇、帝国の陰、そして少年たちの秘密――。重厚な素材を扱いつつも読後感はさわやか。ノエルとサモンが次にどんな事件と出会い、どんな秘密を分けあっていくのか。開幕したばかりのこの英国怪奇ミステリー、まだまだ先を追いかけたくなる。

文=皆川ちか

あわせて読みたい

グレンデル寄宿学校のふたり 十九世紀倫敦奇譚

試し読み *電子書籍ストアBOOK☆WALKERへ移動します