闘病しながら教壇に立つ国語教師と女子生徒32人を描き切る、『ザ・ロイヤルファミリー』『アルプス席の母』の著者最新作【書評】
PR 公開日:2026/9/16

私にとって「学校」や「先生」は、今でも胸をざわつかせる存在だ。中高時代の思春期はこれまでの人生の中で一番苦しい時間だったし、学校の先生に対してもよい思い出はあまりない。それでも、私という人間の核を作ってくれたのは確かにこの時代だった。そして紆余曲折を経て、私も教師の端くれとして教育の現場に関わり続けている。
普段は胸の奥に眠っている学校への複雑な感情が呼び起こされたのは、かつて少女だった私の心を絶妙にえぐる、見事な小説に出会ったからである。早見和真氏の『春までのセンセイ』(双葉社)は、ガンを患う国語教師と、彼が受け持つ女子中学生の一年間を、総勢33名の視点から立体的に織り上げる群像劇だ。
東京都杉並区にある、中高一貫のプロテスタント系学校・私立稜花女学院。3年E組の生徒の前に現れたのが、40代半ばの国語教師・加賀美秀彦である。多くの生徒にとって「ハズレ」に思えた担任だが、彼が穏やかかつ丁寧な口調で話す言葉の数々は、不思議と心に響くものだった。徐々に生徒たちの気持ちを掴んでいく加賀美だが、夏休みが近づいたある日、彼がガンだという噂がクラスを駆け巡る。おまけに生徒の一人、赤城千佳の母親が病気の加賀美を辞めさせようと学校に怒鳴り込んだという。32人の女子中学生たちが、それぞれの思いを抱きながら過ごす最後の1年間。しかし、その日常は少しずつ変わり始めて――。
本書の章立ては極めてシンプルで、新学期の4月から卒業の3月までひと月ずつが丁寧に刻まれていく。3年E組の生徒たちは多様なバックグランドを持ち、小学校から稜花女学院に通っていた内部生と、中学受験を経て入学した外部生の間には、小さな溝が横たわっている。アイドルを推す子や、部活に打ち込む生徒、一匹狼タイプの人気者、悩みやコンプレックスを抱えた子に、教室の中で孤立している生徒――。32名それぞれの等身大の生活と、憧れや嫉妬が入り交じる複雑な人間関係、そして胸の奥に秘めた思いを描く筆致は、どこまでも優しく丁寧だ。どの子に共感するかは、人によってそれぞれ異なるだろう。生徒たちの姿を通して、読者自身が自らの価値観や信念を再確認できる点も、本作の大きな魅力である。
物語の中で描かれるのは、教室という小宇宙で繰り広げられる女子中学生たちの関わりだけではない。早見作品の重要なモチーフである「親と子」の関係も掘り下げられており、大人世代である加賀美とのふれあいや親子の会話など、時折差し挟まれる大人側の視点や言葉にもはっとさせられる。
文化祭や合唱コンクールなどのイベント準備、そして平凡でささやかな日常の中での気づきを経て、生徒たちはつぼみがほころぶように、少しずつ成長を見せていく。大人への不信感や、ままならない学校生活の中で、3年E組の生徒たちはどのように考えて行動するのか。静かな闘いを続けてきた加賀美と生徒たちとの間に結ばれた絆の行く先を、ぜひ見届けてほしい。
文=嵯峨景子
