孤島を舞台にした恋愛リアリティーショーで殺人事件⁉ 華やかな人気女優が、SNSで罵倒される地味な参加者に近づいた理由とは 『好きです、死んでください』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/8/25

好きです、死んでください
好きです、死んでください(中村あき / 双葉社)

「このふたり、きっと惹かれあっている」「あの子は計算高そう」「この男は、どうも信用できない」

 恋愛リアリティーショーを観ていると、出演者のちょっとした言葉や表情から、その人の性格や恋心を読みとりたくなる。画面の向こうの誰かに、分かりやすい役柄を与える。それもまた、このジャンルのおもしろさの一つなのだろう。楽しくも残酷なジャンルだと思う。

 中村あき著『好きです、死んでください』(双葉社)の舞台は、南の孤島で撮影される恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」だ。若手俳優やモデル、グラビアアイドルなど華やかな若者たちに交じって、19歳のミステリー作家・小口栞も参加することに。他の出演者は、いかにも番組映えしそうな顔ぶれだ。

 特撮出身の端正な俳優・桂圭太郎。甘え上手なグラビアアイドル・恋塚うるる。現役女子高生ファッションモデルで、どこか不機嫌そうな青垣外サリー。そして陽性の雰囲気をまとうバンドマン・我妻陽。王子キャラ、ぶりっ子(死語かもですが)、小生意気な美少女、気さくな盛り上げ役。彼らは登場した瞬間から、視聴者が喜びそうな「役」をまとっている。

 一方の栞は高校在学中に作家デビューしたものの、本の売れ行きは今ひとつ。番組のプロデューサーから「作家自身によるセルフプロデュース」の必要性を説かれて出演を決めたのだが、恋愛経験もなく、カメラの前で自分を魅力的に見せる術も知らない。番組ではすっかり浮きまくり、SNSには容赦のない言葉が並ぶ。

 そんな栞に積極的に近づいてくるのが、ひときわ華やかなオーラを放つ人気俳優・松浦花火だ。

 彼女はなぜ栞に好意を示すのか。本当に惹かれているのか。それとも番組を盛り上げるための演技なのか。

 恋愛リアリティーショーの出演者は、素顔をさらしているように見えて、カメラの前で期待された自分を演じてもいる。そこへ番組の仕掛けとして「殺人事件」が持ち込まれる。作られた恋愛のなかで、作られた死が起きる――はずだった。ところが芝居であるはずの死体が、本物の死体にすり替わってしまい……。

 人気者と嫌われ者。思わせぶりな女と、恋愛に不慣れな男。被害者と加害者。番組も視聴者も、分かりやすい役を作り、その人が役にふさわしく振る舞っている間は安心して眺めていられる。だが、明るく魅力的に見えた人物が、別の顔をのぞかせたら? 好意を寄せてくれていると思った相手が、自分の望むようには応えてくれなかったら?

「好き」という感情は、必ずしも相手そのものに向けられているとは限らない。「私が見たいあなた」への好意であることもある。そして相手がその像を裏切ったとき、「好きです」のすぐ横に「死んでください」が立ち現れる。

 ニセモノの恋とニセモノの殺人からはじまった撮影はやがて、過去に葬られた、ある事件へと結びつく。誰が嘘をついているのか、だけでは済ませられない。誰が、誰に、どんな役を背負わせたのか。栞が最終的に解き明かすのは、殺人事件の謎だけではなく、ひとりの人間を追い詰めたおぞましい「筋書き」だ。そこには、人を自分の望む役に閉じ込め、そこから外れた途端に罰しようとする身勝手な欲望が潜んでいる。

 犯人は誰か、という問いだけでは終わらない。それがこの物語に、すべての謎が解けてもなお消えない苦みを残している。

文=皆川ちか

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