安倍晴明の娘は狐耳の最強妖狐! おてんば姫と過保護な兄たちが活躍する大人気シリーズ『晴明の娘 白狐姫、お兄様たちに守られる』【書評】
PR 更新日:2026/9/2

平安貴族の姫といえば、屋敷の中に閉じこもって静かに暮らすもの。――そんな常識を軽やかに打ち破る、快活で行動力あふれるヒロイン像で読者を惹きつけるのが、天野頌子氏の人気シリーズ「晴明の娘」(ポプラ社)だ。
稀代の陰陽師として名高い安倍晴明には、三人の子どもがいる。長男の吉平、次男の吉昌、そして娘の煌子だ。家族の中で煌子だけが、晴明の母である妖狐・葛の葉の強大な妖力と姿を受け継いで生まれてきた。ふさふさの狐耳と尻尾を持つ煌子を、家族は一丸となって愛し、彼女の秘密が露見しないよう守り続けている。
そんな煌子は活発に育ち、比類なき美貌を持つ最強の妖狐に成長する。「京の妖怪をすべて支配すること」を目標に掲げるやんちゃな姫は、「白狐姫」としてあやかしたちの間でその名を馳せ、恐れられていた。やがて煌子の美貌と武勇伝は、帝や東宮などにも知られるようになっていく。妖狐という正体を隠したまま、煌子は宮廷とも関わりはじめ、さまざまな事件や陰謀を解決していくのだった。
前巻では内裏が焼け落ちる大事件が起こり、鵺を倒した煌子は妖力を使い果たしてしまう。この続きとなる最新刊『晴明の娘 白狐姫、お兄様たちに守られる』(同)では、これまでメインを務めてきた煌子がひと休み。回復のため寝込む妹を守ろうと、安倍兄弟が奮闘する姿にスポットライトを当てている。
ともに陰陽寮につとめ、妹を溺愛する兄弟だが、性格は対照的である。長男の吉平は占いを専門とし、上司の妻と通じて処分を受けたこともある遊び人。一方、次男の吉昌は天文を愛する生真面目な性格で、女性に対してどこまでも奥手である。
兄弟の中でも、とりわけ大きな活躍をみせるのが、長男の吉平だ。相変わらず女性がらみの災難に巻き込まれる姿には思わず苦笑してしまうが、最後には陰陽師としての本領を発揮し、鮮やかに事件を解決してみせる。その後も、祟り神が関わる事件の解決や、東宮からの大仕事を果たし、期待の星として注目を浴びていく。自身が遅咲きだった父・晴明が、吉平に向けられるであろうやっかみを案じるなど、父と息子の絆にも心を打たれるだろう。
華やかな兄に比べると、一見地味な吉昌だが、仕事に向き合う真摯な姿勢や努力家な点を含め、応援したくなる愛おしいキャラクターである。兄のことを尊敬しつつ、自らの道を進もうとする姿に、きっと誰もが肩入れしたくなるはずだ。煌子の友人である青姫への恋心も、どうか報われてほしいと願わずにいられない。
本巻では休息パートがメインの煌子だが、目を離したすきに屋敷を抜け出して家族をヒヤヒヤさせるなど、おてんばさは相変わらず健在だ。そして「大暴れする煌子の姿が見たい!」という読者の期待に応えるように、終盤で兄たちの危機に駆けつけるシーンは、極上のカタルシスをもたらしてくれる。サブキャラクターたちのエピソードを通じて、シリーズが積み上げてきた物語の厚みを実感できる一冊だ。
文=嵯峨景子
