マンション価格高騰、物件選びに難航して夫とギクシャク。建築士目線で理想の家を模索する連作短編集『理想の家はどこにある』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/9/9

理想の家はどこにある
『理想の家はどこにある』(東山泰子/双葉社)

 衣食住の中で、「住」がもっとも人生の「質」に密接に関わるというか、むしろ生きる「土台」になるのではなかろうか。どこに住むか、誰と住むか、どんな風に住むか…「住」が安定しないと、なかなか心のやすらぎが得られないこともある。東山泰子さんの書き下ろし文庫新作『理想の家はどこにある』(双葉社)は、そんな「住」の大切さをしみじみ教えてくれる連作短編集だ。

 物語の主人公は、いずれも「理想の家」を探し求める当事者たち。そんな彼らに寄り添うキーパーソンが建築士・蝶野あさりだ。一度は建築士を辞めるつもりだったあさりは、第一話の主人公・真奈美の幼馴染みで、ひょんなことから彼女の家探しにアドバイスしたことから前線に復帰する。軽やかな風のように各話の主人公たちの前に現れて、新鮮かつ的確な視点でアドバイスし、彼らが人生を切り拓く手助けをするのだ。

 第一話は前述のあさりの小学校の同級生の真奈美(32歳)。二子新地の賃貸マンションに暮らす真奈美は、第二子出産を視野にいれると手狭になってしまう現状をなんとかしようと、家を買うことを決意。週末の度に物件巡りをするも、近年の価格高騰で夫と共働きでも手が届かない物件ばかりで家探しは暗礁に。次第に夫との関係もギクシャクしてしまい、半ば諦めかけたある日、昔同級生だった蝶野あさりが建築士になったことを知る。現状を打開するアドバイスがもらえないかと連絡をとってみると、なんと家に遊びにきたあさりから予想の斜め上の提案をされることになる――。

 どんな提案だったのか詳細は本でお楽しみいただくとして、とにかく「なるほど! そういう考え方があったかー」と驚く提案であることは間違いない。物語とはいえ最後は家族みんなが笑顔になり、「『理想の家』を手にいれるって、なんて幸せなことなんだろう!」と実感させられる。

 続く物語の主人公は、会社員を辞めてフリーアドレスのYouTuberとなり、今はシェアハウスに暮らす歩夢(26歳)に、子どもが巣立ち、築40年超えの一軒家で夫と二人暮らしする智子(65歳)、そして生活が不安定なフリーランスライターで、シェアハウスに長く住む友紀(49歳)だ。それぞれひょんなことから「家」について考えはじめ、考えれば考えるほど夢と諦めが交錯する中であさりと出会い、彼女の提案が背中を押してちょっぴり大胆&前向きな選択をすることになる。各人負担は決してゼロではないが、なによりワクワク感を比すれば十分お釣りがきそうなのは共通だ(ちなみに各人は微妙な繋がりを持つ人物たちなのも物語的な妙だ)。

 著者の東山さんはシナリオライターとして、TVドラマ「相棒」シリーズや劇場映画作品などのプロットを手がけ、『猫も歩けば文豪にあたる』(2025年)で小説家デビュー。わかりやすく共感度の高い物語世界に、「あ、これ、私の話だ!」と思う人も多くいるのではないだろうか。ストーリーにワクワクするだけでなく、「理想の家」を探している人には大いなるヒントまでくれそうな一冊だ。

文=荒井理恵

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