「木の字が連なる架空の文字」著者の着想を“形”として表現したタイトルのタイポグラフィが目を引く一冊【デザイナーの装丁惚れ】
公開日:2026/9/7
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年9月号からの転載です。
物としての圧倒的な存在感 黒と白と金が織りなす深い森

物語が求める“形”というものがある。この本の圧倒的な厚さもその一例で、一般流通の文芸書としては異様な存在感を放っていた。


著者はインタビューで、本書は木の字が連なる架空の文字が頭に浮かんだことが着想のきっかけと語っており、それを“形”として表現したタイトルのタイポグラフィがお見事。黒地に白抜き文字と金箔というシンプルな構成ながら、空間を分断するように押された金箔の効果もあり、タイトル下の黒地は本の厚みと相まって、深い奥行きを感じさせる。広い束幅を生かした背のレイアウトも巧みで、文字は箔の森に侵食される。

中面の本文組も企みに満ちており、冒頭は黒いページが続き、物語は一段組と二段組が入り交じって複数の時空を行き来する。この本の隅々にまで施された様々な意匠。さすがは水戸部功、脱帽。

今や出版業界に限らない話ではあるが、コストカットの一環で当初の造本提案が通らないことが常となっており、提案すること自体が徒労なのではないかと思うこともある。しかし、諦めず提案し続けることによってのみ実現する“形”というものがある。
選・文:高柳雅人 写真:首藤幹夫
たかやなぎ・まさと●装幀家・デザイナー。角川書店装丁室から2008年に独立し、以降も多くの本の装丁に携わる。手がけた作品は「謎解きはディナーのあとで」シリーズ、『なれのはて』など。

