文筆家・伊藤亜和「連帯やシスターフッドの外側に生きている人を祝福したかった。」30歳を目前に控えて“信念を持たないことを信念にしよう”【インタビュー】
公開日:2026/9/5

自身の心を揺らした経験を率直な言葉で綴るエッセイのほか、絵本やラジオなどの幅広い活動で支持を集める文筆家の伊藤亜和さん。新刊は、現代を気高く生きる女性たちをテーマにしたエッセイとショートストーリーを収めた『魔女になりたい』(文藝春秋)だ。「ずっとやりたかったことが実現できた」という本書は、どのように生まれたのだろうか。魔女という存在への思いや、本書を書き終えた今の関心事まで、幅広く話してもらった。

「魔女」は女性がなりたい姿と周りからの期待が重なった存在
――「現代の魔女」をテーマにエッセイを書こうと思ったきっかけを教えてください。
伊藤亜和さん(以下、伊藤):私はもともとファンタジーや魔法に親しんできて、子どもの頃はファンタジーと現実の区別もつかないほど没頭していたのですが、わりと早い段階で、自分は魔法を使えない側の人間だとわかってしまって。そういう自分の欠損感と――今は小説も書いていますけど、私は現実に基づいたエッセイから文筆業を始めて、(CREA WEBの)この連載を始めた頃もエッセイだけを書いていたので、なかなかそこから抜け出せず、現実世界にとどめられているっていうもどかしさもあって。そのふたつが重なったのがきっかけですね。
――「私は魔法を使えない側の人間だ」とわかったのはいつ頃だったんですか?
伊藤:実はそこはまだ納得できていないんですけど(笑)。でも、小学校に入る頃ぐらいには、壁をすり抜けたり、空を飛んだりはできないってわかりました。今は、現実にある材料でどうにか魔女になれないか、ということをずっとやっていますね(笑)。魔法的な力はなくても、振る舞いやファッションとか、そういうところから魔女に近づきたいっていう思いはずっとあります。
――このエッセイで描かれる女性たちに共通する魔女らしさとはどういう点でしょうか。
伊藤:私自身がそうであるように、私の周りにいる女性って容姿や属性から、学生の女の子にありがちな「グループで一緒に行動する」という暗黙の了解から外れてしまったり、自分から拒絶していたりして、そういう振る舞いがわからないまま大人になった人が多いと思うんです。でも、今って、そういうふうに 「自分のルールで勝手に楽しくやっていく」という心の持ちようは良くないという風潮が強まっていますよね。とくにSNSでは、同じ属性の人間は同じ使命を背負って声をあげていくべきという雰囲気がある中で、私自身、そのことをまだ噛み砕けてない部分もあって。だから、連帯やシスターフッドの中ではなく、個人として生きている私の周りの子たちの状況を祝福したかったという思いもありました。
――このエッセイを書きあげたことで、魔女の認識や「魔女になりたい」という思いは変わりましたか?
伊藤:古典的な魔女って、老婆でイヒヒと笑って、みたいなイメージがありますけど、最近のアニメなどでは、美しくて不老不死でミステリアスで、すごい力を持っているという描かれ方をよくされますよね。それに、女性って少なからず「魔女になりたい」って願望を持った時期があるんじゃないかと思っていて。そう考えると、老けなくて綺麗で、ミステリアスで賢くてっていう最近の魔女のイメージは、今、女性に求められている姿でもあるんですよね。このエッセイを書き終えて、女性たちの願望と、女性が外から求められるものが、ないまぜになった存在が魔女なんじゃないかと思いました。「魔女になりたい」という願望が、その時に求められる女性のあり方にもつながっていると最近は思ってますね。

