疲れた心に極上のスイーツが沁みわたる! 凄腕パティシエと謎めいた語り部がパリを舞台にスイーツ対決! 「ものがたり洋菓子店 月と私」シリーズ最新作【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/10/1

ものがたり洋菓子店月と私なのかの休日
『ものがたり洋菓子店月と私なのかの休日』(野村美月 / ポプラ社)

 おいしいスイーツは疲れた心に沁みわたり、人生に幸せと彩りをもたらしてくれる。腕利きシェフが手掛ける、極上のスイーツならなおさらだ。野村美月氏の人気シリーズ「ものがたり洋菓子店 月と私」(ポプラ社)は、内気な凄腕パティシエと、彼女が生み出すお菓子の魅力を言葉で引き出すストーリーテラーが織りなす、とびきり甘くて温かなヒューマンドラマである。

 住宅街に佇む、隠れ家のような洋菓子店「月と私」。オーナーパティシエの三田村糖花(みたむらとうか)が生み出すお菓子は評判を呼び、店内はいつもお客で賑わっている。このお店には魅力的なスイーツの他に、もう一つの名物があった。クラシカルな燕尾服に身を包み、うやうやしく接客する店員――「ストーリーテラー」を名乗る語部九十九(かたりべつくも)である。語部はお菓子の魅力を流麗に語るだけでなく、お客の心を解きほぐす特別な物語も紡ぎ出してみせるのだった。

 シリーズ最新刊の『ものがたり洋菓子店 月と私 なのかの休日』(同)は、パリに向かった糖花と語部のエピソードを中心に展開。実業家のアルベールに頼まれて、糖花はパリに新しく出店予定のスイーツ店の商品監修を務めることになった。プレゼンのためにパリに渡るも、二人を待ち受ける状況は前途多難だった。アルベールの甥で、富裕層向けの高級店でチーフパティシエを務めるミカエルは、大衆寄りの新店舗を受け入れられず、糖花を追い出そうと嫌がらせをする。実力も地位も兼ね備えた男に妨害された糖花と語部は、ミカエルを納得させる商品を作ろうとするのだが……。

 パリを舞台に繰り広げられる人間ドラマは、とびきり華やかかつ濃密だ。シリーズ第7弾ではミカエルを筆頭に、彼の父で語部の亡き母と浅からぬ関係だったシモン、ミカエルの弟で実業一家の落ちこぼれであるガブリエルなど、新キャラが多数登場する。とりわけ強烈なのがミカエルで、パティシエとしてのプライドと語部への複雑な思いを胸に、二人の前に大きな壁として立ちはだかる。重圧と妨害の中で、糖花がどのようなスイーツを生み出し、現地の人々の心を掴んでいくのか。自分らしいお菓子を作ろうと試作を繰り返す糖花と、彼女の奮闘を的確にサポートする語部。困難の中でも互いを信頼し合う二人の絆と仕事ぶりは、本巻の何よりの見どころだ。

 作中には実在の場所や店舗が登場し、パリの観光案内としても楽しめる。最古のパティスリー「ストレー」からルーヴル美術館まで人気スポットが描かれ、一緒に旅をしているようで心が弾む。現地を歩いてお菓子のヒントを探しながら、アムールの国でさらに距離を縮める糖花と語部の甘酸っぱい姿にも要注目だ。

 語部と母の切なくも幸せな記憶が宿る「すみれの砂糖漬け」。その甘やかで可憐な香りが漂うエピソードの最後には、大きな驚きが待ち受けている。甘い余韻を一変させる不穏なラストに、次巻への期待を抑えきれなくなるはずだ。

文=嵯峨景子

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