金持ち以外の国民は使い捨て!? 『日本が売られる』堤未果に聞いた、日本の未来は?

社会

2019/1/8

 タダ同然の水、お米や農地、森や海、学校、仕事、医療保険……。今まで安全安価な国民の暮らしを守ってくれた法律を、安倍内閣が強引に次々改正して日本を根こそぎ海外に売り飛ばそうとしている。公共財産にすべて値札が付けられ、お金がなければ何も手に入らなくなるという悪夢。マスコミが報道しないその舞台裏を、入念な調査によって暴いたベストセラー『日本が売られる』(幻冬舎)が予想する未来の地獄絵図とは? 国の暴走を止めるために私たちにできることはあるのか? 著者の堤未果さんに話を伺った。

■金持ち以外損する日本

――寝る前に『日本が売られる』を読んだら、腹が立って眠れなくなりました。心臓に悪い本ですが、これは“お金持ち以外”すべての国民が読んだほうがいいですね。

堤未果氏(以下、堤) 読者はがきもたくさんいただきます。「国を信じ過ぎていました」「歯を食いしばって読むほど体力がいりました」という方もいます。かなり売れているので、マスコミの方からもたくさん取材を受けるのですが、不思議そうな顔をして「なんで政府(自民党)は日本を売るようなことをするんですか?」という人も少なくない。“お上は絶対に悪いことはしない”という性善説に立っている人が多い事に驚きました。

――堤さんが、最初に「日本で大変なことが起きている」と感じたきっかけは何だったのでしょうか?

 日本人の主食である米、麦、大豆を安定共有するための「主要農作物種子法」(以下、種子法)の廃止法が2017年4月に成立したことです。日米首脳会談でトランプ大統領から日米2国間交渉を強く求められた安倍首相の帰国直後、いきなり大した理由もなく「種子法廃止」が閣議決定されてしまったのです。同時に種を「公共種子」として安全安価で販売していた農協へのバッシングがひどくなっていきました。すでにアメリカ、ヨーロッパ、中東、アジアで農業がマネーゲームの巨大市場となり、遺伝子組み換え作物や農薬大手メーカーが大儲けしてどんどん各国に進出していることを私はウォール街にいた頃から知っていたので、「これはマズいな」と思ったのがきっかけでした。

――「食をコントロールする者が人民を支配する」と説いたアメリカが、農業で他国を侵略するために次々に種子法を廃止させてきたのと同じ流れですね。

 はい。これについては「(株)貧困大国アメリカ」という本に詳しく書きましたが、例えば「民主主義」のためと報道されていたイラク戦争の目的の一つは「種子」でした。それぐらい大きな問題なので、「種子法」の国際背景だけで1冊書いてくれという依頼もあった。でも、今まで日本の公共資産を守ってきた法律が次々に改正されて、種だけでなく農地も水も海もすべて値札がついて世界中で争奪戦になっている。この本を書いている間にも、どんどん法律が変わっていくので一冊ずつ書いていたのではとても間に合わない。ですから、今日本で起きている問題をまとめて大きな1枚の絵として見せ、普段政治に興味がない人も含めてまずは全国民に危機感を持ってもらえる企画に急遽変更しました。

 これほど急速に法改正が進んでいるのは、(2018年12月30日に発効する)TPP(環太平洋連携協定)やEPA(経済連携協定)に間に合わせるため。そういう約束をしているからです。

■センセーショナルなニュースはストック! 私たちは騙されている?

――ひとつひとつのニュースを見聞きすることはあっても、事の重大さを報道するメディアはほとんどありません。国民も問題意識が低く関心を持たないので、与党のやりたい放題という印象です。

 そういったことのツケがすべて回ってきていますよね。だからこの本もページ数の関係で半分位項目を落としましたが、まとめて書いたことに意味があると思っています。そのために今回は議事録や条文もたくさん読みましたし、調査するのにかなり時間がかかって、書き終わった後に疲れて寝込んでしまったほどです。条文ってすごく日本語がトリッキーで、わざと本意が伝わらないように書いてあるとしか思えないほど意味不明なんですね。だから10回ぐらい読み直さないといけなくて、すごく大変でした。

『日本が売られる』〈目次〉は下記の通り
まえがき いつの間にかどんどん売られる日本

第1章 日本人の資産が売られる

1. 水が売られる(水道民営化)
2. 土が売られる(汚染土の再利用)
3. タネが売られる(種子法廃止)
4. ミツバチの命が売られる(農薬規制緩和)
5. 食の選択肢が売られる(遺伝子組み換え食品表示消滅)
6. 牛乳が売られる(生乳流通自由化)
7. 農地が売られる(農地法改正)
8. 森が売られる(森林経営管理法)
9. 海が売られる(漁協法改正)
10. 築地が売られる(卸売市場解体)

第2章 日本人の未来が売られる

1. 労働者が売られる(高度プロフェッショナル制度)
2. 日本人の仕事が売られる(改正国家戦略特区法)
3. ブラック企業対策が売られる(労働監督部門民営化)
4. ギャンブルが売られる(IR法)
5. 学校が売られる(公設民営学校解禁)
6. 医療が売られる(医療タダ乗り)
7. 老後が売られる(介護の投資商品化)
8. 個人情報が売られる(マイナンバー包囲網拡大)

第3章 売られたものは取り返せ

1. お笑い芸人の草の根政治革命 ~イタリア
2. 92歳の首相が消費税廃止 ~マレーシア
3. 有機農業大国となり、ハゲタカたちから国を守る ~ロシア
4. 巨大水企業のふるさとで水道公営化を叫ぶ ~フランス
5. 考える消費者と協同組合の最強タッグ ~スイス
6. もう止められない! 子供を農薬から守る母親たち ~アメリカ

あとがき 売らせない日本

――確かに、海外の動向やデータも細かく説得力ある内容でした。調査を進めるなかで、重大な法改正をなるべく国民に気づかれないようにする情報操作など、気がついたこともあったのでは。

 法律のことなので、一応、報道はするわけです。ただ、注目が集まらないように他の大きなニュースとぶつけているな、というのはわかりましたね。たとえば種子法廃止は、森友学園問題の籠池前理事長の証人喚問のニュースにぶつけていました。しかも籠池前理事長を「早く呼べ、呼べ」と言っても全然出てこなくて、国民の怒りが頂点になったところで本人を呼ぶ、という前段まであったので、ワイドショーが全部そっちを取り上げてしまった。種子法廃止は形ばかり報道されましたけど、まったく注目されませんでした。水道法改正も、オウム事件の被告の死刑報道ですっかりかき消されてしまっていた。

 中には、これ2年前の話だよね? というスキャンダルを法改正と同じ日に報道していたこともありました。なぜそういうことができるかというと、ニュースはストックしておいて、流す日を選べるからです。ですから情報の受け手が意識して見ていないと、国民生活の基盤を揺るがすようなニュースが、他のスキャンダルの陰に隠れてわからなくなってしまうんですね。でもこの本を読んだ人は、ニュースの見方が変わりますよ。頭のなかに日本が売られていく全体像の絵図ができているので、今後は簡単には騙されなくなるでしょう。

――12月6日には、水道の民営化法案が衆院本会議で強引に可決され成立しました。審議を進めていた内閣府民間資金等活用事業推進室には、水道サービス大手のヴェオリア社の社員もいたそうです(2018年11月29日付朝日新聞)。日本の資産が根こそぎ海外企業に買い漁られたら、私たちの生活はどうなるのでしょうか。

 公共のものにすべて値札がついて商品化されるので、安全安心がタダ同然だった国としての形が崩れてゆきます。私たちが税金で雇っている国会議員や官僚は、本来国民のための公共財産を守る立場なのですが、民営化すれば「全国民に安定供給する」という公的な責任は放棄され、「利益を出す」という企業の目的に上書きされるからです。ビジネスになれば当然採算が合わないものは廃止され、利益を出すために料金はあげられる。例えば水道は、今まで一部業務だけ民間委託しても最終決定権は自治体のものだったのが、今後運営権まで売却されたら企業の法人税や株主配当、役員報酬まで全て料金に上乗せされて値上げできるようになります。多くの国では水道の完全民営化によって、料金が高騰してお金持ちしか水が飲めなくなったり、貧困地域の水道管が修繕されなかったりして大問題になりました。水は氷山の一角です。気をつけてみていないと、今日本が進めている「国家丸ごと民営化」の先には、そのようなディストピアが冗談では済まなくなるでしょう。

■農薬大国日本で発達障害児や自閉症の発症率が高い理由

――日本は世界3位の農薬使用大国で、2位の韓国とともに群を抜いて発達障害児や自閉症の発症率が高い国なんですね。アレルギー疾患も急増しています。

 EUは、欧州食品安全機関(EFSA)による、「一部ネオニコチノイド系農薬に子どもの脳や神経などへの発達神経毒性がある」との科学的見解に基づいて、ネオニコチノイド系農薬(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)を主成分とする殺虫剤の使用を2018年に全面禁止しました。スイス、オランダ、韓国、フランス、ドイツ、カナダなど、販売や使用を禁止している国が増えている中、実は日本の厚労省や農水省は、世界の流れに逆行して残留農薬基準値残留農薬基準値をどんどん緩和しているのです。

――生物の神経系統や生殖器に悪い影響を及ぼし、動物実験で発がん性が確認された農薬グリホサートも、日本はアメリカ政府に言われるがまま残留基準を大きく緩めました。

 農薬の残留基準緩和は、農薬を製造・販売する住友化学から基準値引き上げの要望を受けた農水省が改訂を申請し、厚労省が基準値を変更しています。私の夫(参議院議員の川田龍平氏)が農水委員会で相当質問しているんですが、議事録を見て仰天しました。食品安全委員会のメンバーは食品安全の現場と関係ない人たちで占められている上に、厚労省が農薬残留基準値の安全性審査に使った評価資料は、基準値を引き上げれば大儲けできる農薬メーカーが作成したデータを使っているという始末です。

■働かせ方改革はやっぱりインチキ法案だった!?

――「働き方改革法案」も超ブラック法案です。従業員が長時間労働で過労死しても雇い主が責任逃れできる「働かせ方改革法案」だと堤さんもおっしゃっていますね。24時間働かせても合法なんて、今まで過労死で命を落とした方も浮かばれません。

 はい。この法案の旗振り役をした産業競争力会議の議員も、ほとんどが大企業の社長や役員ですから、労働者の側ではなく労働者を使う側の人たちの目線で作られています。その中の「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)などは極めて危険な内容で、どこかで流れた「年収1075万円以上の専門分野の人」なんていう情報は、この法律のどこにも書かれていません。フレックス制もそう、どこにも書いてない。厚労省に、「どうなるんですか?」って聞くと、「細かいことはこれから決めます!」と。つまり法律というのは、まずは何がなんでも通すために小さく決めて、そのあと自分たちに都合がいいように大きく育てる、それがお約束なのです。

 この法案をプッシュした経団連と前厚労大臣は、「対象年収は400万円まで下げるべき」などと言っていますし、給料が低い高いにかかわらず、時間内に仕事を終えられない社員に残業代を出すことをやめたいと。かといって生産性の高い人の成果が「賃金」で反映される規定は一切ないので、企業側にはいいことずくめですね。安倍首相も、「労働者のニーズではなく、経済界から制度創設の意見があったので作りました!」と明言しています。

――竹中平蔵さんがやることもすごいですね。自分が参加している国家戦略特別区域諮問会議で、まず外国人就労を認める施策を進めました。その後、政府が斡旋をはじめた外国人受け入れ事業を、自身が会長を務めるパソナグループに何十億と受注させている。どう考えても利益誘導としか思えません。

 はい、その構造もこの本に詳しく書きました。あれはまさに今日本が売られる状況を作っている元凶の一つです。あまりにあからさまなので「利害関係がある人は国家戦略特別区域諮問会議に参加できない」と、自民党の人たちが付帯決議で決めたんですが、拘束力はありません。付帯決議を法律化する動きを国民が後押しするべきでしょう。

■外国人労働者が増えて損するのはビジネスパーソン?

――外国人労働者受け入れ拡大に向けた「入管法改正案」もこの12月に可決しました。コンビニも飲食店も肉体労働も、すでに外国人従業員の割合が多いですが、今後ますます移民が急増しますね。

 確実に増えます。今までのように観光客が増えて嬉しい、などという話ではありません。移民を大量に受け入れ安い賃金で雇うと、仕事の奪い合いになりますから日本人の賃金も下がる。外国人労働者が100万人増えると、国内の賃金は24%下がるという試算も出ています。安易に移民を増やした結果、ヘイトや暴動が起き国が貧困化している欧州をみて下さい。

 例えばスウェーデンは移民の増加とともに非常に治安が悪くなり、ゲットー(移民だけの地区)には軍隊と一緒じゃないと入れないほどです。でもその移民のために税金がたくさん使われている。安倍首相は2025年までに外国人労働者を50万人受け入れると言っていますが、爆発的に増える移民を支えるのは私たち日本人です。外国人労働者が利用する健康保険や公共サービスに必要な税金も、現役の会社員が最も払わされることになるでしょう。給料から自動的に引き落とされますから。

――保険証一枚でいつでも質の高い治療が受けられる「国民皆保険制度」も、世界中が羨む日本の制度のひとつですが、外国人労働者の急増にともなって利用者数も増えています。

 医療目的を隠して、留学ビザなどで来日してから国民健康保険に加入して高額の治療を受ける外国人も急増しています。先日、保険を使える外国人の扶養家族は日本国内に住む人限定という条件に変わりましたが、以前は、何十人でも海外の扶養家族まで保険適用していました。移民は本人だけでなくその家族の暮らしや医療、年金、社会保障にまで関わる厚生労働分野案件ですが、入管法改正は法務省の管轄。でも移民とは単に一時的な安い労働力ではなく、その人の長い人生や家族や暮らしを引き受ける、ずっと重い話なのです。

 出生証明書さえあればもらえる42万円の出産一時金も、中国人を中心に申請が急増しています。提出書類が本物かどうか、役所窓口では確認しようがないんですね。世界一と言われる国民皆保険制度を持つここ日本で、外国人が増えてゆく事は医療保険を食い物にする不正ブローカーだけでなく、低賃金で社会保障を必要とする外国人労働者たちの分も今後は国民の方にのしかかってくるという事。保険料もどんどん上げていかないと間に合いません。実際、上がっていますからね。

 でも政府はこうした問題を解決するどころか、外国人労働者が入ってきやすいように、滞在期間を延長したり家族を呼び寄せやすくしたり、一定の技術習得期間など条件を満たせば永住権を与えるなど、逆に至れり尽くせりの環境を用意しているのです。

――怒りを通り越して呆れるばかりです……。でも第3章「売られたものは取り返せ」では、やりたい放題の政府や企業に立ち向かった海外の事例が紹介されていますね。後編では、私たち日本人ができることについてぜひアドバイスをお願いします。

【後編】国会議員は法案を読んでいない?『日本が売られる』堤未果に、日本の未来を聞いた!

取材・文=樺山美夏 撮影=内海裕之