東日本大震災で家族を喪った人たちにとって霊体験は生きる希望【著者インタビュー 後編】

社会

公開日:2017/4/11

『魂でもいいから、そばにいて 3.11後の霊体験を聞く』(奥野修司/新潮社)

 東日本大震災で家族を喪った人達が体験した「霊との遭遇」をまとめた、『魂でもいいから、そばにいて 3.11後の霊体験を聞く』(新潮社)には、著者の奥野修司さんと出会ってようやく、家族以外に霊体験を話せるようになったという人達が登場する。しかしなかには霊体験を話すどころか、声そのものすら誰からもかけられないまま過ごしていた被災者もいるそうだ。

肯定することで、遺族は救われる

 南三陸町に住んでいた千葉みよ子さんは2011年4月、底冷えする避難所に夫と長女、三女の菜緒さんと4人で留まっていた。菜緒さんは夫と夫の両親、一人娘で3歳3か月のゆうちゃんの4人を津波に流された。そんな千葉さん一家に声をかける者はなく、同じ集落の人でさえ姿を見るとこっそり逃げていく始末だった。

 それはひとえにどう慰めていいかわからず、かける言葉がなかったからだろう。しかし「なんにも悪いことをしていないのに、誰も声をかけてくれない。私たちが何をしたというの!」と失意のどん底だった千葉さんに、被災地を訪問された天皇陛下がゆうちゃんの写真を見つめ「かわいいお孫さんですね」と声をかけられた。それ以来周囲の人は手のひらをかえしたように態度が変わったそうだ。

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「家族のほとんどを亡くした人には、なかなか声はかけられないものだと自分も思っていたんです。だけど寄り添うことは慰めることではなくて、ただそばにいて話を聞くことだと取材を通して気付きました。上手な言葉をかけられなくても話を聞いて肯定する人がいたら、千葉さんはもっと早く救われたのではと思います」

 一時期は「死んだ方がよかった」とまで言っていた菜緒さんだったが、国連の依頼によりニューヨークで講演したことで少しずつ立ち直り、2014年夏にはゆうちゃんがよく遊びに行っていた、仙台空港の近くに引っ越した。その頃から千葉さん母子の前に、ゆうちゃんが現れるようになる。ゆうちゃんが「いちごが食べたい」「じゃがりこが食べたい」などと言ってはすぐに隠れる夢を、2人は同じ時間に見るようになった。そしてみよ子さんは言う。

「娘の夢も同じだから、きっと私たちは孫に助けられているんです。これがもがき苦しんでいる夢だったら、たぶん私たちも生きていけないですよ。3年以上も苦しんだのですから、孫は私たちに、『もうこれ以上苦しまないで』と言ってるような気がします」

 悲しみにくれている間ではなく、日常を取り戻した頃に家族が現れるようになったのは、千葉さん一家だけではない。登場するほとんどの家族が、同様のタイミングでメッセージを受け取っている。

「それがどういう現象なのかはわからないけれど、少し落ち着いて『頑張って生きていこうかな』と思った矢先に霊体験をする方が多くいらっしゃいました。今回取材したなかには、子供のうちの1人を亡くしている人もいます。残ったきょうだいのために生きなくては、何かをしなくてはとある意味生きる目的を意識した際に、こういう現象が出てくるのかもしれません。しかしそれ以前に悲しみにくれている時では、誰かに話すと自分が潰れてしまうという不安があったのかもしれません。実際、同居していた母親と2匹の飼い猫を津波で喪って1人遺された大友陽子さんは、ケーナに夢中になるまでお話を伺えませんでした。悲しみのさなかでは、なかなか他人に話などできないのだと思います。しかし悲しみを抱えたままだと人間は、身動きができなくなってしまいます。だから本来は僕みたいな相手に話すのではなく、同じ体験をした遺族同士が語りあえる場があればいいですよね。同じ痛みがあれば、感覚を共有できると思いますし」

遺族にとって霊体験は「生きる希望」

 この本には亡くなった最愛の人の魂に触れた、16の家族が登場する。いずれの人たちも喪失感を抱え、「あの時ああしていれば助かったのに」といった自責の念にとらわれていたが、亡くなった魂と再会することで「ちょっと頑張っかな」と思えるようになっている。もちろん、悲しみが癒えたわけでは全くない。しかし少なくとも、遺された自分の生を蔑ろにせずに生きられるまでには回復している。

「霊が存在するかどうかは、僕には証明できません。でもいてくれると思ったほうが、強い喪失を抱えた人は楽になりますよね。この本は月刊『新潮』などの連載をまとめたものですが、家族をガンで亡くされた読者から連載時に『読んで楽になった』と書かれたメールをいただきました。

 最愛の人を喪ったとき、遺された人の悲しみを癒すのは、その人にとっての『納得できる物語』だと思います。とくに震災では働き盛りのお父さんや幼い子供を喪った方も多く、長年闘病していた祖父母などを喪った時以上に強い悲しみを味わったと思うので、霊体験を通して物語を紡ぎ直したのではないか。

 読者の中には『ただの妄想では?』と思う方もいるかもしれませんが、霊体験は遺族にとっては、生きる希望なのです。そしてこの世には合理的なものだけではなく、理屈でははかれない非合理的なものがあるということを、この本を通して気付いてもらえたらと思っています」

著者:奥野修司さん

取材・文=今井 順梨