右や左の概念はもう古い! 世界を変える新たな改革を求める人たち ――『なぜ、世界は“右傾化”するのか?』池上彰×増田ユリヤ【前編】

政治

2017/7/21

(左)池上彰さん(右)増田ユリヤさん

 

 「アメリカ・ファースト」を標榜するトランプ大統領の誕生、国民投票でEU離脱が決まったイギリス、フランス大統領選でエマニュエル・マクロン氏と接戦した極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン、極右といわれる保守政党が政権を取り戻したポーランド……。この世界の一連の動きは右傾化なのか?

 その実情を、現地取材をもとにまとめた『なぜ、世界は“右傾化”するのか?』(ポプラ社)を読むと問題の本質が見えてくる。報道の現場で活躍する著者の池上彰さんと増田ユリヤさんに、“右傾化”という名の一国主義と、メディアと政治の関係について話を伺った。

 

■極右といわれるトランプやルペンが目指しているのは日本だった

――本書を読むと、必ずしも世界が右傾化しているわけではなく、右翼についての認識も海外と日本では違うことがわかります。あえてダブルクォーテーションでくくった“右傾化”とはどういうことを意味するのでしょうか。

池上彰さん(以下、池上) 増田さんがフランスを取材したとき、極右だといわれている国民戦線のマリーヌ・ルペンさんの主張を聞いて驚いたんですよ。

増田ユリヤさん(以下、増田) たとえばテロの増加や失業率の高さは移民や難民のせいだから、その数を1万人におさえようというのがルペンさんの主張ですね。

池上 つまり移民を1万人に減らすことが極右だと言われている。一方、日本の移民の受け入れはゼロ、難民は2015年が27人、2016年が28人です。そんな日本がルペンさんを極右と言えるのか? と。ルペンさんは、フランス人から生まれた子どもだけがフランス国籍を得られるようにしようという主張もしています。日本はもともと日本人の子どもしか日本国籍を認めていませんから、ルペンさんが目指しているのは日本なんですよ。そのルペンさんが極右だったら日本はどうなるのか? という驚きがありました。

「アメリカ・ファースト」を標榜するトランプさんも政策のひとつとして、難民の受け入れを5万人に減らすと言っています。オバマ元大統領が10万人受け入れていたのを5万人にすると言って、反発を受けている。日本とレベルが違いすぎますよね。トランプのほうが日本よりはるかに進んでいるんです。

増田 トランプを支持したのは、グローバリズムに対する反対派ですよね。あとは新しい改革を求めている人たちです。

池上 昔のアメリカはどの産業も世界でトップだったのに、今はこんなに衰退してしまった……と不満を抱えていた労働者たちが、トランプの「メイク アメリカ グレート アゲイン(偉大なアメリカを再び)」という言葉に期待したわけです。「日本を、取り戻す。」をスローガンにして政権を取り戻した総理大臣もいますが(笑)。

増田 ルペンさんに票が集まったのも、労働者の町です。トランプさんとルペンさんに共通するのは、不満を持っている人たちを惹きつけている点ですね。既存の政治で自分たちが不利益をこうむっていると思っている人たちは、自分の不遇を何かのせいにしたい。トランプもルペンも、それを移民のせいにすることで貧しくなった労働者たちの共感を集めたわけです。

 

■自分の国さえよければいいという「一国主義」を“右傾化”と定義

池上 ですから、ダブルクォーテーションつきの“右傾化”はいわゆる「一国主義」のことで、日本人がイメージする右翼とは全然違うんですね。日本では、たとえば憲法を改正して軍隊を持てるようにしようと主張している人たちが右寄りで、今の平和憲法を守ろうといっているのが左寄り、みたいなイメージがあります。これも世界からみると実に不思議で、普通、与党は憲法を守ろうとして、野党が憲法を改正したがるのに日本は逆です。ものすごくねじれているわけです。

 イギリスのEU離脱が国民投票で決まったのも、「イギリスさえよければいい」という典型的な一国主義です。まさかと思っていたトランプがアメリカの大統領になり、同じくまさかのイギリスのEU離脱が決まり、次にフランスやドイツの選挙も控えていて、世界が大きく変わりつつあると感じたので、「次のまさかもあるかもしれないね」と話していた増田さんと本を出すことにしたのです。結果、フランス大統領選の結果までギリギリ入れることができたのはよかったですね。

――その一国主義の流れの風向きを変えたのが、マクロン大統領の誕生です。

増田 フランスでは、“右”といえば「共和党」だし、“左”といえば「社会党」です。その違いは、たとえば社会党は“社会保障などの充実を主張”し、共和党は“大企業寄りのイメージ”があるのですが、国民はもううんざりしていました。どちらが大統領になっても、何も変わりませんでしたから。そういう人たちが、右でも左でもない中道派のマクロンさんを大統領に選びました。

中道といっても左右の真ん中じゃなく、そこから外れたまったく新しい道を選んだのだと、マクロン支持派の人たちは言っていました。自分たちの利権や地位やメリットだけを守ろうとするお金に汚い人間が今までの政治家で、そうじゃない人を私たちは選んだのだと。右や左の概念がもう通用しない状況になってきているのです。

――本書を読んで、いかに自分が各国の政治情勢について正しく理解していなかったかを痛感しました。

池上 私自身も、増田さんの現地レポートではじめて知ったことがたくさんあります。

増田 私、アメリカ大統領選の取材をはじめたとき、ここまで各国の取材が長引くとは思っていなかったんですよ。というのも、取材の最初の段階で「あれ? おかしいな」と思ったんですね。日本では当然のようにヒラリーさんが勝つと予想されていたのに、現場は全然違いましたから。でも東京のスタジオにいる池上さんにそのことをお伝えしても、「そんなことないんじゃないの?」と(笑)。結果、泡沫候補といわれていたトランプさんが当選したわけです。

池上 まさかの結果に、本当にびっくりしましたね。

 

■自らスキャンダルをメディアに売り込んだトランプ。フェイクニュースを信じないフランス人

増田 あのとき、報道の内容と実際に起こっていることに大きなズレを感じたのです。ニュースのあり方が、あらかじめ考えておいたストーリーに情報をあてはめて伝えているように感じて、「それって違うんじゃないかな?」と。そこから、「2015年に右傾化がはじまったといわれているポーランドは実際どうだったんだろう?」「その流れを汲んでいるといわれているオランダは?」と、次々に疑問が湧いてきて現地を取材したわけです。

実際に現場の声を聞いていくと、ニュースで見聞きしていることと違うこともよくありました。特にフランスの大統領選は、世論調査ではルペンさんが断トツ1位というデータが多かったのですが、それに対する恐怖感を抱いている人もとても多かった。フランス人はどの政党を支持して誰に投票するか、みんな常に考えていて、日常的に議論しているんですね。どの人も必ず自分の意見や主張したいことがありますから。そういった現場の声と報道のズレは感じましたね。

――政党や候補者選びにあたり、メディア情報の受け取り方も有権者にとっては難しい問題です。WEBの情報やSNSにはフェイクニュースも多いですから。

池上 メディアの利用の仕方は、アメリカとフランスではまったく違いますね。

増田 フランス人は最初からメディアを信じていません。そういう国民性がありますね。マクロンさんのフェイクニュースが出ても、誰もまったく動じませんでしたから。私がフランスにいる間、「あのフェイクニュースは本当のところどうなの?」という質問をしてきたのは日本人の方でしたから(笑)。

池上 はい、私もその一人です(笑)。あのときロシアが、マクロンを落としてルペンを勝たせるために、マクロンに対するフェイクニュースをいっぱい流したんですよ。「実はマクロンはゲイだ」とか。

増田 「24歳年上の奥さんがいるけれど、浮気している相手は男性だ」とか(笑)。

池上 あれはまったく影響なかったですね。一方、アメリカ人の場合は、まず新聞を読みません。情報収集は基本的にSNSとFOXニュースですね。この前、聞いた話で面白かったのは、「フランスでなぜルペンが勝てなかったのか?」という質問に対して、「フランスにはFOXニュースがないからだ」と。あとは、トランプ支持派の極右オンラインニュースサイト「ブライトバート・ニュース」もトランプ当選に大きな影響を与えました。

増田 メディアの影響力でいえば、トランプさんは単純にメディアへの露出が多かったことが大きかったですね。そうすると大勢の国民が見ますから。

池上 トランプはメディア戦略が上手で、暴言を吐けばニュースになって視聴率が上がることがわかっていたんですね。「悪名は無名に勝る」ですよ。そもそもトランプは、マンハッタンで不動産王として有名になったとき、バロンという偽名を使って自分のスキャンダルをメディアに売り込んだ人ですから。メディアが自分の悪口を書いてくれればくれるほど、本人は喜んでいたでしょうね。結局、メディアが「バロンって誰だ?」と探しはじめたら、バロンはトランプ本人だったのです。

増田 アメリカには閉塞感もあって、変わらない世の中を変えてくれる人を誰かに期待したいという気持ちが国民のなかで高まっていました。ではヒラリーさんに変えられるかといったら、変わらないですよね。そこで型破りな人を選んでみようという流れになったのだと思います。

【後編】へつづく(7月24日6:30公開予定)

取材・文=樺山美夏 写真=内海裕之