鈴木亮平主演、宮沢氷魚が恋人役で2023年2月に映画化決定! 高山真が遺した物語『エゴイスト』を今、再び読み返すことについて

文芸・カルチャー

公開日:2022/9/2

鈴木亮平、宮沢氷魚
©2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

 学生時代から筆者の友人であったエッセイストの故・高山真から「小説を書いてみたのだけれど」と聞かされたのは、もう10年以上前のことだ。私は仕事帰りに書店へ立ち寄り、「あ」の棚から「浅田マコト」という筆名で書かれた小説『エゴイスト』を探し出し、購入したその日の内に一気に読んでしまった。

 高山がつき合っていた彼との話は本人から時折聞いていたので、その体験を物語へと昇華していること、キャラクターがきちんと書き分けられていること、そしてタイトルと文体、引用されている文学作品(三島由紀夫『沈める滝』とジェームズ・ボールドウィン『ジョヴァンニの部屋』)がとにかく高山らしいね、という感想を伝えると「あぁ、本読みの貴方にそう言っていただけて、安心した!」と安堵していたことをよく覚えている。

エゴイスト
エゴイスト』©高山真/小学館

 物語は幼い頃から「おかま」といじめられた漁港の田舎町を捨て、大学進学を機に上京、ゲイとして自分らしく生きられるようになった雑誌編集者の斉藤浩輔が、30歳を超えて緩み始めた体を鍛えるためのパーソナルトレーナーとして出会った中村龍太と惹かれ合うところから始まる。

 ところが病気がちな母との生活費を龍太が男たちに体を売って稼いでいることを知り、中学生のときに母を亡くし、そのとき何も出来なかったことが心のしこりになっていた浩輔は「僕が買ってやるよ」「専属の客になってやる」と言い放ち、龍太を自分だけのものにして、さらに“母との物語”をも金で買い戻そうとする、というものだ。苦しくも幸せな生活が続くかと思われたある日、浩輔を突然の出来事が襲う……そこから先は“エゴイスト”が何を意味しているのかを心に留めながら、ぜひ小説をお読みいただきたい。

advertisement

 長らく絶版であった小説が高山真の名(浅田マコト名義は、高山の書くものとはちょっと違った世界を描くため使ったという。ちなみに「浅田」はフィギュアスケーターの浅田真央さんの名字を拝借したそうだ)で電子書籍と文庫本として再び世に出ることになったのは、2023年2月に小説を原作とした同名映画の公開が決まったからだ。

 しかも文庫版の解説は、映画で浩輔役を演じる俳優の鈴木亮平さんが担当されている(龍太役は宮沢氷魚さん)。役作りのために鈴木さんが考えたこと、会うことのなかった高山真という人物に対しての真摯な思い、そして社会に対する考えがストレートに綴られた素晴らしい文章なので、本編を読んだ後、そして映画を見る前に一読されることをお勧めしたい(電子書籍版には高山と親交のあった作詞家の及川眠子さん、エッセイストのジェーン・スーさん、漫画家の森恒二さんが言葉を寄せているので、こちらもぜひアクセスを)。

 この物語で描かれた出来事は、ほぼ高山の実体験である。おそらく高山にとってこの話を書くことは、千千に乱れ滅茶苦茶に絡まってしまった心の整理であり、贖罪であったのだと思う。早逝した実母と家族、つき合っていた年下の彼、そして病身の彼の母……彼らに伝えられなかった思いや言葉は、エッセイやノンフィクションではなく、小説として結実する他なかったのだろう。高山は2020年10月1日、肝細胞癌でこの世を去った。しかし彼の経験から紡がれた言葉と物語は、今もこうして多くの人を魅了している。肉体は消えても、強い思いや精神は確実に次の世代へと繋がれていくものだ。

 おそらく、ぼくが孤独というものを感じはじめたのは、その夏のことであった。そして、ついにはこの暮れゆく窓辺にまでいたったぼくの逃避も、その夏にはじまっていたのである。(『ジョヴァンニの部屋』ジェームズ・ボールドウィン、大橋吉之輔:訳/白水社)

 死してなお書き手として爪痕を残そうとする強烈なエゴと執念。それも含め「高山らしいね」というのが今、再び本作を読み返しての私の率直な感想だ。そして作品の中での花をめぐる母との幼い日の出来事の描写に心を揺さぶられ、「それも、高山らしいよね」と独り言ち、最後に語り合った一昨年の暑い夏の日を思い出した。

文=成田全(ナリタタモツ)

原作者・高山真プロフィール
東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる傍ら、エッセイストとして活躍。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)、『羽生結弦は助走をしない
誰も書かなかったフィギュアの世界』(集英社)、『愛は毒か 毒が愛か』(講談社)など。2020 年没。

映画『エゴイスト』
出演:鈴木亮平宮沢氷魚
原作:高山真『エゴイスト』(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子 音楽:世武裕子
企画・プロデューサー:明石直弓 プロデューサー:横山蘭平 紀嘉久
ラインプロデューサー:和氣俊之 撮影:池田直矢 照明:舘野秀樹
サウンドデザイン:石坂紘行 録音:弥栄裕樹 小牧将人 美術・装飾:佐藤希 編集:早野亮
LGBTQ+inclusive director:ミヤタ廉
スタイリスト:篠塚奈美 ヘアメイクデザイン:宮田靖士
ヘアメイク:山田みずき 久慈拓路 助監督:松下洋平 制作担当:阿部史嗣
制作プロダクション:ROBOT 製作幹事・配給:東京テアトル
製作:「エゴイスト」製作委員会(東京テアトル/日活/ライツキューブ/ROBOT)
(R-15)

あわせて読みたい