“あの男”の元祖も登場! 伊坂幸太郎が自身の処女作をリメイクした絵本『クリスマスを探偵と』

文芸・カルチャー

2017/11/22

『クリスマスを探偵と』(河出書房新社)

 「サンタっていつまで信じてた?」と不用意な質問を同級生にして、「今も信じてる」ときっぱり返され自分を恥じたことがある。という記憶を思い起こさせられた伊坂幸太郎の新作絵本『クリスマスを探偵と』(河出書房新社)。本当は自分だって長らく信じていたし、中学生だったその時も信じていたかったのに、「まだ信じてんの、だっせー」とからかわれたのをきっかけに斜に構えるようになっていただけ。自分を馬鹿にした人たちと、同じことを相手にもしてしまったのだと気づかされた。出会ったことがない、自分の家には来なかった、というのはサンタ非実在の証拠にはならない。もしかしたらこの世のどこかで本当にサンタを求めている人たちにプレゼントを配り続けているかもしれないという、自分が信じていたい希望も同時に呼び覚まさせてくれた。

 伊坂さんが大学生のときはじめて書いた小説をもとにリメイクされたというだけあって、本作は伊坂イズムが満載だ。主人公はどこかシニカルな中年探偵・カール。クリスマスイブに浮気調査で尾行中、公園で出会ったどこか飄々とした男。その男にカールが語るのは、父親との思い出話。サンタを信じていたころの自分、サンタのせいで壊れてしまった自分の家庭。やがて男との会話によって、浮気調査は思いもよらぬ真実に導かれていく――。

 物語に彩りを添えるのは、クラシカルで落ち着いたトーンのなかに情緒のただようマヌエーレ・フィオールの描きおろしイラスト。伊坂さんだけでなく、松本大洋氏をはじめ日本のマンガ家たちが推薦するフランスのバンドデシネ作家だ。

 伊坂ファンなら既知のとおり、あまり物語に言及するとどれもネタバレになってしまうのであらすじについては上記でとどめておくが、ひとつだけ歓喜の事実を伝えるとすれば、カールの出会う男は、“あの男”の元祖ということ。最後まで読み終えたあとに、“彼”が変遷を経てあの形に生まれ変わったことを考えるとなかなかに感慨深い。

 男は言う。「こじつけ、というのは嫌いですか?」

 「解釈と言うべきなんですかね。物事は解釈の仕方によって、さまざまな姿を見せる、ということなんですが」と前置きし、「たとえば」から始まる口上はカール以上に探偵のそれだ。都合のいい思い込みかもしれない。事実を捻じ曲げているだけかもしれない。それでもこじつけて理屈がとおるなら、そしてそれを信じられるなら、きっとたぶん、真実だ。サンタがいるもいないも。過去に起きた家族のわだかまりの理由も。自分が納得できる筋道があって、信じようと思えるなら、潔く信じてしまえばいい。

 ラストのどんでん返しは、作家・伊坂幸太郎から読者に向けたとっておきのクリスマスプレゼント。見方次第でいかようにも反転させられる世界の姿を、その目で確かめてみてほしい。

文=立花もも