青春群像劇『響け! ユーフォニアム』著者の新作は、田舎のカヌー部が舞台! 4人の少女が全国制覇を目指す

文芸・カルチャー

2019/3/26

『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』(武田綾乃/新潮社)

 私が中学校でバスケットボール部に入ったとき、同級生に身長190cmの選手がいた。高さが何よりも有利になるリングの下で、彼は誰よりもリバウンドが取れたし、軽々とゴールを決めた。でも、彼にはやる気がなかった。今振り返ってみれば、自分が有利すぎるスポーツは、さぞ退屈だろうと想像できる。だけど、当時はそんな風には考えられなかった。そんなに恵まれた身体を持っているのに、なんでちゃんと練習に来ないんだよ…。口には出さなかったけれど、心の内にはそんな暗い感情があった。かといって、自分だって心の底から本気で練習に打ち込んでいたわけではない。「本気で全国を目指していたか?」と問われても、即座に首を縦に振ることはできなかっただろう。遊びでもなければ、本気でもない――。そんな奇妙な感覚で汗を流していた。

 武田綾乃さんの小説を読んでいると、あの頃の光景がありありと脳裏に浮かぶ。新シリーズ『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』(新潮社)は、とある高校のカヌー部を舞台にした青春小説だ。大所帯の吹奏楽部を描いた前作『響け! ユーフォニアム』とは異なり、4人しかいないカヌー部の面々の心情を丁寧に描いていく。

 高校進学を機に埼玉に引っ越してきた主人公の舞奈は、地元の川で華麗にカヌーを操る少女・恵梨香と出会い、カヌー部に入ることを決意する。ふたりを出迎えたのは、2年生の希衣(きえ)と千帆(ちほ)。第1巻の見どころは、彼女たちの複雑な関係性だろう。

「私は千帆だってあの子に負けてないと思ってるけどね。本気さえ出せば」

 希衣と千帆は、小学生のころからペアを組んでいる幼馴染。当時の千帆は、小学生部門で敵なし。だが、中学2年で身長が伸び悩み、それまで格下だった選手に抜かれ始める。そのことをきっかけに、彼女は本気で結果を追い求めることをやめてしまった――。千帆は、高校では園芸部にも所属し、カヌーはあくまでも趣味として楽しんでいる。そんな千帆の変わり様を、希衣は素直に受け入れることができていない。それでも、個人のタイムは相変わらず千帆のほうが上…。だからこそ、“あの子”――去年のインターハイ優勝者・利根蘭子の話題が出たときも、希衣は千帆にキツく当たってしまった。「本気さえ出せば」と。

 才能や実力の差。競技にかける思いの差。ペアとしての相性…。さまざまな要素が絡み合い、少女たちの感情は揺れ動きつづける。それはきっと、いつだったか、読者である自分が誰かに対して感じていたものだ。武田綾乃さんの小説は、いつでも読者を“青春のど真ん中”に連れ戻してくれる。

文=中川凌