いよいよ“その時”は近づいている……!? 佐方貞人シリーズ最新作『検事の信義』は、正義とはなにかの根幹を問いかける!

文芸・カルチャー

2019/4/20

『検事の信義』(柚月裕子/KADOKAWA)

 正義感をふりかざすのと、正義を遂行するのは違う。前者はやや主観的で、後者はより客観的だ。柚月裕子さんの小説で、検事・佐方貞人(さかたさだと)は常に「罪はまっとうに裁かれるべきだ」と主張し続けてきた。一度罪を犯した人間なのだからどんな事情があっても罰せられてしかるべきだ、というのではなく、たとえ罪人であろうとも裁きは犯した罪に相応に下されるべきで、罪に真正面から向き合うことが更生への道であるのだと。

 だから佐方は、めったに感情をあらわにしない。自分がどう思ったか、どうすべきだと思うか、などは差し挟まずに、ただ真実だけを追い求める。思い込みによって事実を「ありそうな物語」に変えてしまう周囲に反して、彼だけは隠された真実にたどりつく。探偵のように事件を解き明かしていくさまはいつも読んでいて爽快、それだけで読みごたえ十分なのだが、シリーズ4作目『検事の信義』(KADOKAWA)はくわえて、正義の根幹を問い直す物語でもあった。

 問題判決、というものがある。たとえば罪が軽くなるとか、無罪になるとか、起訴した当初の思惑とは違う、検察庁にとっては納得しがたい判決のことだ。本作ではこの、問題判決がカギとなる。

 たとえば1話目「裁きを望む」で、亡き資産家宅に不法侵入した男の事件。冒頭で佐方は、被告人に無罪を告げ、不当勾留に申し訳なかったと頭を下げる。検察にとってはいちばん避けなくてはならないこの事態に、いったいどうして陥ったのか……? 事件を追ううち佐方は、無実をひっくりかえしかねない真相にたどりつき、さらなる追及と正当な裁きを求めるのだが、正義を同じくするはずの上司・筒井にこう言われてしまう。「機械的に法律を適用することが、必ずしも正義だとは限らない」。それは検事になって3年、法にのっとり“まっとうに”裁かれることを正義としてきた佐方にとっては、自分の根幹を揺るがしかねない提言だった。

 3話目「正義を質す」では、気の置けない同期との再会によって、さらなる正義の揺らぎに直面する。検察の不正告発事件と、暴力団との裏取引。巨悪を罰するため、なにより市民の安全を守るために譲らなければならないものをつきつけられ、答えを出した佐方の心情はいかばかりだったか。検察としての正義、ひとりの検事としての正義。本作で佐方は、その狭間で常に揺れ続ける。

 基本的に本シリーズは、佐方本人ではなく、周辺人物の視点で語られる(佐方自身の過去を語るエピソードは除く)。本作では事務官・増田がその役目を負っているが、譲れない正義をどこまでも貫こうとする佐方を尊敬しながら、増田は一抹の不安を覚える。それは読者も同じだろう。なにせ佐方は、5年目にして検察の体制とぶつかり検事をやめ、弁護士に転向することがシリーズ1作目『最後の証人』で明かされているのだから。

 少しずつ時は近づいている。とくに最終話『信義を守る』は、その伏線ともいえる一作だ。もしかしたら次巻では、その時が描かれるのかもしれないと期待が高まる。本作は6年ぶりのシリーズ新刊。できればもう少しはやく読めるといいな……と願いつつ、この先の展開を心して待ちたい。

文=立花もも