話題の映画『空の青さを知る人よ』が完全小説化! キャラクター視点で描かれる小説版の魅力に注目

文芸・カルチャー

2019/10/10

『小説 空の青さを知る人よ』(額賀澪:著、超平和バスターズ:原作/KADOKAWA)

 2011年4月に放送されたテレビアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(通称『あの花』)は完成度の高い作画とストーリーが大好評を博し、舞台となった埼玉県秩父市は『あの花』の聖地として多くのアニメファンが訪れるようになった。その後2013年の『あの花』劇場版公開を経て、2015年の9月に同じスタッフによる新作劇場アニメ『心が叫びたがってるんだ。』(通称『ここさけ』)が公開。本作も舞台は秩父であり、スタッフたちの秩父に対する思い入れの深さが感じられた。そして2019年10月11日、『あの花』『ここさけ』スタッフによる劇場アニメ最新作『空の青さを知る人よ』がいよいよ公開される。

 それに先駆けて発売されたのが『小説 空の青さを知る人よ』(額賀澪:著、超平和バスターズ:原作/KADOKAWA)だ。本書は『イシイカナコが笑うなら』などの作品で知られる作家・額賀澪氏により、アニメの脚本をベースに書き下ろされたものである。

 物語は秩父山地に囲まれた山間の街に暮らしている高校2年生・相生あおいの進路相談から始まる。卒業後はバンド活動のため東京へ行くというあおいは、姉の相生あかねとのふたり暮らし。13年前に事故で両親を失い、恋人との上京を断念したあかねは、以後、あおいの親代わりとしてこの地で生きてきたのである。あおいは自分を育てるために多くを犠牲にしてきた姉に対し、負い目を感じていた。そんな折、町内会で町興しの一環として大物歌手・新渡戸団吉を呼ぶことが決まる。新渡戸のバックバンドには、かつてあかねの恋人であった金室慎之介の姿があった。それと時を同じくするように、ベースギターの練習をしているあおいの前に、13年前の「しんの」こと、高校生の金室慎之介が現れる。「しんの」と「あおい」、「慎之介」と「あかね」。13年の時を経て、それぞれの関係が動き始める──。

 姉に負い目を感じているあおいや、夢を抱いて上京したもののうまくいかず、演歌歌手のバックバンドとして失意のうちに地元へ戻ってきた金室慎之介など、登場人物それぞれが迷いや葛藤を抱える本作。そんな感情のぶつかり合いを通じて、彼らの「本当の想い」を描き出していく。もちろんこれは『あの花』や『ここさけ』でもお馴染みの手法であり、ファンならずとも必ずや観る人の心に響くであろう。

 本書のあとがきによれば「さまざまな登場人物の視点が交錯する映画版とは違い、小説版は「相生あおい」という大きな葛藤を抱えた女子高生にフォーカスし、「金室慎之介」という大人の視点を交えながら物語は進んでいきます」という。つまり映画版とはアプローチが異なり、あおいの視点を中心に描かれているというわけだ。物語の本筋は変わらなくとも、視点が異なるだけで印象も随分と変わるはず。本書を映画の前に読んでも後に読んでも、それぞれ違った楽しみがありそうだ。また、本作の舞台も当然「秩父」で、「秩父ミューズパーク」など実際の名所や名物なども多数登場する。「聖地巡礼」の場所もどんどん増えそうで、ファンたちにとっても嬉しい限りではないだろうか。

文=木谷誠