ヨシタケシンスケさん「大人がいうことばかりが全てじゃない」――MOE絵本屋さん大賞2019に、かこさとしさんの遺作も

文芸・カルチャー

更新日:2020/5/11

■第6位 『みずとは なんじゃ?』(かこさとし:作、鈴木まもる:絵/小峰書店)

 幼い三兄弟の暮らしから水の性質とその働きを楽しく学べる、絵本界のレジェンド・かこさとしさんの遺作となる一作。読者の目の高さに合わせ、順を追って大切なことを教えてくれる展開は、幼い科学の心を豊かに育むことだろう。

「この本には病床で校正を続けたかこの、子どもさんや地球環境への強い思いが詰まっています。多くの方に読んでいただけるように願っています」(かこさとしさんの長女・万里さんの手紙/代読)

「出版社から『かこ先生の絵を描いてほしい』と電話があったとき、当初は今の仕事が終わってから、ということで一旦電話を切りました。でも、雲の上の存在だった大好きなかこ先生にお会いできると思い直して、すぐに電話をかけ直しました。お会いしたとき、何度も手をさすりながら『お願いします』と先生から言われた感触は今でも覚えています。何度かダミーを作り直して最終的なゴーサインをお待ちしていましたが、残念ながらお亡くなりになってしまい、めげずにひたすら描きました。自然にかこ先生のキャラクターも登場させていましたが、『面白い! その調子で描きなさいね』と先生が言ってくれているようでした」(鈴木まもる)

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■第7位 『Michi』(Junaida:作/福音館書店)

 いつともどこともしれない、美しく不思議な世界をつなぐ白い道。本の表と裏の両面から、それぞれ男の子と女の子が歩いて行きます。絵本の中に自分が入り込んでしまうかのような感覚が味わえる、不思議感覚の絵本。

「この本は言葉もなく、表からも裏からも読めるという変わったものなので、読者に歩み寄ってもらわないと楽しんでもらえません。そんな本なのに、まず書店員さんが反応して読者に届けてくださったことが本当にありがたかったです」(Junaida)

■第8位 『ねえさんといもうと』(シャーロット・ゾロトウ:文、酒井駒子:絵・訳/あすなろ書房)

 何から何まで世話をしてくれる優しいお姉さんに、頼りきりだった妹。けれど、ある日変化が芽生え…温もりある繊細な筆致で姉妹の心を生き生きと描いた一冊は、懐かしいようでなんだか新しい。

「元は1966年に出版された絵本です。同じ年に生まれた私はすっかりおばあさんになりましたが、ゾロトウの本は色褪せない。選んでくださる方がいたことに、すごく励まされました」(酒井駒子/代読)

■第9位 『ねこのずかん』(大森裕子:作、今泉忠明:監修/白泉社)

 クルンと丸くなったり、尻尾をブワッと膨らませたり、くっつきあって「猫だんご」になったり、「ごめん寝」したり…知ってたような知らなかったような猫の生態にいろいろ出会える絵本図鑑。「猫語」も学べます!

「ずっと猫を描くのが苦手だったんですが、実は『猫とはこういうものだ』と決めつけて見ていたからだったのかもと思うようになりました。猫は飼い主のことを『ダメな大きな猫』だと思っているそうです。『誰だってダメな大きな猫なんだー』と思ったら、なんとなく世界が面白くなって軽やかになりました」(大森裕子)

■第10位およびパパママ賞第1位
『ノラネコぐんだん おばけのやま』(工藤ノリコ:作/白泉社)

 美味しそう〜! おだんご屋さんに無断侵入したノラネコぐんだんは、ちゃっかりみんなでお団子を作り、いざ食べようとしたら謎の突風。全部持っていかれたお団子を探すノラネコぐんだんの未来はいかに!? おかしくて美味しい、ノラネコぐんだんの定番の味をどうぞ。

「前作は小さいときからのファンのお子さんが小学生になる頃というのもあって、画面を分割するなど少し込み入ったものにしましたが、今回は1歳や2歳のお子さんが楽しめるように、単純だけど骨太な物語で、大きな絵で見せるなど工夫しました。こうした挑戦が毎回できるのも、小さな読者と繋いでくださる書店の皆さんのおかげです」(工藤ノリコ)

■新人賞第1位『むれ』(ひろたあきら:作/KADOKAWA)

 ひつじのむれ、さかなのむれ、とうめいにんげんのむれ…びっしり描かれたむれの中に、仲間はずれは見つかる? ひと味違った探し絵遊びを楽しみながら、「みんなと違う」とはどういうことなのか、思わず考えてしまう一冊。帯はピース又吉。

「帯の方が価値のある本かもしれませんが本当に嬉しいです。僕は売れない若手芸人ですが、命がけで大好きな絵本を300冊くらい集めて、絵本の読み聞かせやイベントもしています。これからも絵本界を盛り上げられるように頑張りたいです!」(ひろたあきら)

 贈賞式の終わりには上位入賞作に対するレビューの中からMOE編集部が選んだ「ベストレビュアー賞」への楯の贈呈も行われ、受賞した書店員さんたちが全国から来場して喜びをコメント。そして絵本愛に溢れた贈賞式は幕となりました。

取材・文=荒井理恵