制裁と救済の意味を問う――第62回メフィスト賞受賞! 現役司法修習生が描く衝撃のリーガルミステリー『法廷遊戯』

文芸・カルチャー

更新日:2021/8/25

『法廷遊戯』(五十嵐律人/講談社)

 罪のない“無辜”の者が罰を受けたとき、それを救済する道はあるのか。また、罰を与えてしまった者が払うべき代償とは――。

 第62回メフィスト賞を受賞した五十嵐律人のデビュー作『法廷遊戯』(講談社)は、自らの罪と罰、裁きと報いに向き合う若者たちを描いた長編リーガルミステリーだ。

 物語の語り手となるのは、法曹の道を目指してロースクールに通う久我清義(くがきよよし)。彼が通うロースクールでは、時折「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる裁判を模した変わった遊びが開催されていた。このゲームはロースクール生たちの間で、ある種の私的制裁を許容するやや物騒な内容になっている。

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 ゲームを仕掛ける“加害者”は、ターゲットとなる“被害者”に対して刑罰法規に反する罪を犯して天秤のサインを残す。ゲームを受ける被害者が、“審判者”に告訴すれば、無辜ゲームは開催される。被害者は“告訴者”として証拠や証言を開示し、最後に犯人を指定。その指定した人物が犯人だと審判者が判断したら、犯人は“同害報復”の論理に従ってゲームを仕掛けたときの加害と同等の罰を受ける。

 もし、告訴者の指定が間違っていると審判者が判断した場合には、無辜の人間に罪を押しつけようとした告訴者が罰を受けることになる。審判者を務めるのは、すでに司法試験に合格し、ロースクールでは皆から天才と呼ばれている男、結城馨(ゆうきかおる)だ。

 ある日、清義にこの無辜ゲームが仕掛けられる。それは清義の過去の罪を暴き、同じロースクールに通う織本美鈴(おりもとみれい)と彼との間にある秘密に迫ろうとするものだった。さらに、美鈴のアパートのドアにアイスピックが突き刺さっているという事件が発生。そのアイスピックの柄には天秤のマークが添えられた手紙がくくりつけられていた。

 さらに模擬法廷で馨の指定席となっている裁判長席の机に天秤のチャームがついたナイフが突き立てられる。一連の事件につながりはあるのか。犯人の目的は? 不可解な事態に翻弄されながらも、清義、馨、美鈴の3人はロースクールを卒業して、それぞれの道を歩み始める。

 やがて年月が過ぎた頃、唐突に馨が無辜ゲームの開催を宣告。そこで事件が起きる。3人のうち、ひとりが命を失い、ひとりは事件の被告人となり、ひとりはその被告人の弁護人となった――。

 本作は2部構成で、第1部「無辜ゲーム」で交わされる議論やさりげない会話が、第2部「法廷遊戯」で展開される実際の刑事裁判、事件の真相をめぐる伏線となっている。その緻密に練られた構成が実に巧みだ。なぜ事件は起きたのか。それを仕組んだ人物の背景は? その狙いはなんなのか。謎の答えが明らかになったとき、すべてがつながっていく。そして、ラストに待ち受ける、さらなる予想外の展開に多くの読者が驚愕するだろう。

 日本の司法制度と法哲学の問題に切り込みながら、ロジカルに展開する法廷劇、謎解きミステリーの醍醐味を味わえる本作だが、同時にこれは過去の罪を贖おうとする若者たちの青春の物語でもある。読後、清義、馨、美鈴、それぞれの葛藤と選択に思いを馳せると、切なくビターな感慨がこみ上げてくる。

 著者の五十嵐律人は司法試験に合格して弁護士を目指している現役の司法修習生だという。要注目、今後の活躍を期待させる才能の登場だ。

文=橋富政彦