絵を描くのが好きな男子高校生と、悲しい宿命を背負った女子高校生…世界が一瞬で色づく恋の物語

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/26

満月の夜に君を見つける
『満月の夜に君を見つける』(冬野夜空/スターツ出版)

 世界の色が一瞬で変わる。モノクロだった景色が突然鮮やかに輝きだす。あの人のせいだ。あの人と出会う前には戻れない。あの人なしの日常なんてもう考えたくもない。そう思わされるような出会いを、あなたは経験したことがあるだろうか。

 冬野夜空さん著『満月の夜に君を見つける』(スターツ出版)は、そんな永遠の恋を描き出した作品。高校生のリアルな恋愛を描きながらも、ファンタジー要素もあり、あっという間にその世界に惹きつけられてしまう物語だ。

 主人公は、絵を描くのが好きな男子高校生・本宮。彼の席の隣には、奇妙な空席があった。高校に入学してから2カ月以上の月日が経っているのに、その席は空いたまま。本宮は、空席を埋める転校生をイメージしては、毎日モノクロの絵を描いていた。ある日の放課後、本宮が教室に残って絵を描いていると、そこに、不思議な雰囲気を纏った美少女・水無瀬月が現れる。そして、彼女は翌日から本宮の隣の空席を埋め、彼のクラスの一員となった。「私、あなたの絵が好き」。率直に本宮の絵を褒める月。本宮は月と一緒に絵を描くようになり、互いが互いをかけがえのない存在として思い始めるのだった。

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 本宮と月は似たもの同士だ。2人とも絵を描くのが得意というのもあるが、それだけではない。本宮は、家族を失って以来、他人と関わることを避けるようになり、いつもひとりでいた。高校生では珍しく、ひとり暮らしをしているから、家に帰ってもひとりぼっちだ。月もまた、あまり人との付き合いは得意ではないらしい。月も家族と何かがあったようで、本宮と同じようにひとりで暮らしている。心に深い傷を負った孤独な2人が、共感し合い、惹かれ合うのは、当然のことのように思える。彼らは、互いの存在によって、単調に思えていた日々が色づくのを感じていくのだ。

 だが、月は、過去のある出来事をきっかけに、視界からすべての色を失っていた。そして、「幸せになればなるほど死に近づく」という宿命を背負っていたのだ。本宮と一緒にいることで満ち足りた生活を送っていた月は、次第に体調を崩すようになる。そんな月に対して本宮は一体何をしてあげられるというのだろう。お互いに惹かれ合っているというのに、本宮と月に突きつけられた運命はなんて残酷なのだろうか。

 あなたは、「長命で平凡な人生」と「短命で幸福な人生」を選べと言われたら、どちらの人生を歩みたいだろうか。私には到底選べそうにもない。長くてもつまらない人生など歩みたくないし、幸せだからといって、短い人生も嫌だ。それでも本宮は、ひとつの結論にたどり着く。月のために、そして、自分のために、ある決断をするのだ。

 満月の夜のラストシーンには、胸が締めつけられる。生きるとは何か。幸せとは何か。この本を読むと考えずにはいられない。今まさに青春の時を過ごしている人も、かつて青春を過ごした人も、心動かされるに違いない物語。

文=アサトーミナミ