SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第6回「隠れヘテロドックス」

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公開日:2021/12/27

 しかし舵を切り直した私ではあるが、天邪鬼に生きてみたい、と一度でも思ってしまったその後遺症のようなものが今でも無意識に顔をのぞかせたりすることがあるようだ。

「なんで箸置き使わないの?」
「なんでコースター使わないの?」

 最近言われた言葉である。

 全くと言っていい程に無自覚で、こだわりを持ってやっていたことではなかったので驚いた。しかし、言われてみれば箸置きとコースターに対して微かに抵抗感を覚えている私を新発見してしまって、更に驚いてしまった。

 せっかくなのでどこからくる抵抗感なのかを考えてみた結果、この二つが持つ強制力が嫌なのだろう、というところで合点がいった。「これが出現したのだから、ここにしか置いてはいけません」といった圧力を本能的に感じていたのだろう。

 「人がああだからこうしよう、人がこうだからああしよう、だって人と違う自分が格好良いんだもん」と思っていたかつての私にしてみたら、その場においてのいわゆる「普通」を用意されてしまっているのだから許せない事案だったろう。しかしそれは十年以上も前の話だ。今はオーソドックスを受け入れている状態で心身ともに完璧に整っていると思っていた私は、風呂場のカビのように心の深層にあの時の気持ちが根付いてしまっている事実を思い知らされて暗澹とした気持ちになった。

 そして、箸は必ず一番手前の器に横向きに渡して置かなければ気持ちが落ち着かず、グラスに至っては、コースターを避けて置くだけではなく、置いたグラスの底が作る結露の輪の上にもう一度グラスを戻すことさえ憚る現在の自分の性質に思いあたり、静かに愕然とした。

 反抗するなら道なんか大きく踏み外せばいいのに。箸置きの上に靴を置き、食事中にだらしなく肘を置くためにコースターを使う、そんな反体制の精神で迷うことなく邁進していたならばまだしも。

 誰にも気が付かれないようなところでつま先だけひっそりはみ出すような慎ましい抵抗を、未だにしていたただなんて。なんだか夏休みだけ、こっそり茶髪にする中学生みたいだと思ってしまった。

 

 人はかくして失敗に気が付き、そこに格好のつかない自分を発見しては成長していく。

 前向きに考えれば三十四歳にしてまだ伸び代を残しているということになるのかもしらん。

 この先もし、オンステージの私を観て、「あれ、なんだか以前より」と心奪われてしまう瞬間があったとしたならばそれは、私が箸置きとコースターをきちんと受け入れることが出来たというサインだ。

 これからのSUPER BEAVERに、まだまだ期待を抱いていて欲しい。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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