SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」／第9回「拝啓、映画館様」

　聞きたくない感想を聞くこと程、苦痛なことはない。アマゾンのレビューやフィルマークスのコメントなど、個人的には参考になった試しがない。何が良かったのかを紐解いたり、どうして悪かったのか文句を言ったり、それはその人が感じ取った機微に興味があるもの同士がやり合うから面白いのであって、どこの馬の骨かもわからない赤の他人の心の内にはほとほと関心がない。普段からそういったものを避けて生きている身としては、ゲリラ豪雨のように避けようがなく降り注ぐそれらは実に耐えがたく、浴びせかけられそうになると耳を塞いで大声を出しながら逃げ出したくなるのが常だ。

　心に響こうが、響かなかろうが、私は向き合った物語はある程度の時間を掛けて反芻したい。例えば誰かと映画を観に行った場合も、すぐに話し出したくなる気持ちをグッと堪えて、喫茶店まで気持ちの封を切らずに持っていきたい。

　それなのに。

　余韻を楽しむ間も与えてもらえないあの状況ときたら、まるで最高に良い雰囲気のデートのクライマックスにお爺さん同士の取っ組み合いの喧嘩を見せられたような感じだ（多分）。

　これを無粋と言わずになんというのだ、情緒のかけらもない。

　半径三メートルに対してだけで構わない、ある程度の配慮が出来れば容易に防ぐことの出来る事態だと思うのだが。きっとこの手のことが出来ない人間は、聞かれてもいないうんちくを突然披露したり、一日が長丁場になるとわかっている午前中に要冷蔵のお土産を渡すタイプの人間なのだろう。

　圧倒的に想像力に欠けている。

　これらを防ぐ方法としては、やはり「施設の設置されている建物を出るまでの私語禁止」しかない。鑑賞した映画に関しての私語禁止、と初めのうちは思っていたが、こうしてしまうと線引きがかなり曖昧になってしまう。なのでいっそ、全員黙るが美しい。

　興味の及ばぬどこぞの誰かの感想を浴びずに済むそれに加え、今一度熟考することの出来る時間が加わり、押し並べて個人の感想にコクが出ること請け合いだ。

　そして上映後、抱いた感想を早く開放したいが為に速やかに席を立つ観客が増えることにより、間違いなく転換の時間の短縮にも繋がると思う。

　いかかがだろうか映画館様。なかなかの妙案だと自負しているのだが。

　慎ましく苦しんでいるであろう数多の同志を代表して提案させて頂きました。

　あと、可能であればマナーとしてではなくルールとして、映画の感想にメタファーって言葉をみだりに使う人を厳しめに罰する決まりを作って下さい。