ブラック企業の起源は「忠臣蔵」だった!?

ビジネス

公開日:2013/9/22

 時間外労働は当たり前。残業手当もつかないし、セクハラ、パワハラは日常茶飯事。それなのに過度なノルマは要求されるし、いらなくなったら使い捨て。2012年からは、ブラック企業大賞などという不名誉なものまで作られてしまったほど。しかし、そんなブラック企業が生まれる根底には、どうやら日本人の大好きな『忠臣蔵』の価値観が関係しているというのだ。それを解説しているのが、8月29日に発売された『日本の起源』(東島 誠、與那覇潤/太田出版)。忠臣蔵がブラック企業の起源だというのは、一体どういうことなのだろう?

 まず、『忠臣蔵』といえば雪の降る中での討ち入りシーンが有名だが、そのきっかけとなったのは、赤穂藩主である浅野内匠頭が江戸城内で吉良上野介に斬りかかった事件。加害者の浅野は即日切腹させられたが、吉良はお咎めなし。この裁きを不公平だと思った赤穂浪士たちが、主君の仇討ちをするために吉良邸に侵入したのだ。

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 でも、この指揮を取った家老の大石内蔵助、実は主君である浅野との関係がそれほど深いわけではなかった。『日本の起源』によると、当時の武士たちは戦国時代の武士のように実力で取り立てられたりすることもないし、大石に至っては参勤交代制度のおかげで浅野とは育ったところも別だったそう。家老になれたのも、単に家老の家に生まれたから。そんな彼が、どうして主君のために危険を冒してまで討ち入りを果たしたのか。

 そこで登場するのが、「かのように」の精神だそう。この「かのように」というのは森鴎外の『かのように』という小説からきたもので、「いまもあるかのように」ふるまうこと。主君との間の「情」があるかのように行動する。つまり、「義理」の関係だということだ。一度会社に入ったからには、どんな待遇だろうと恩がある「かのように」ふるまうという姿勢は、たしかに今のサラリーマンにも通じる気がする。

 また、この時代の武士たちは、主君が亡くなると御家のためは家のためと次々殉死していた。あまりの殉死者の多さに、幕府が禁止令を出すほど。義理だけで殉死までとは信じられないかもしれないが、ここに「平和」や「家族」という要素を加えるとどうか。戦って戦果をあげることができないなら、自分を犠牲にするくらいしかアピールする方法はない。それに、周りからは「やつは殿様に取り立ててもらったんだから当然死ぬんだろうな」というふうに見られるし、家族からも「お父ちゃん、息子の出世のために死んでおくれ」というプレッシャーを感じることに。こうなってくると、たしかにあたかも「情がかよっている“かのように”行動しなければならない局面」は増えてくる。さらに、赤穂浪士は47名の内26名が「親子やなんらかの親族関係にある者」だったらしく、ほぼ「家ぐるみ」の行動だった。赤穂藩はまさに企業一家だったので、家族の暮らしを人質に取られてしまっては、「どんなにブラックな業務命令でもしたがわざるをえない」のだ。

 そんな『忠臣蔵』がこれほど愛されているのだから、やはり日本人には昔から会社への従属を過剰に求める“ブラック企業”を生み出す土壌があったと言えるのだろう。それに気づき、その精神から見直さなければ、まだまだブラック企業の餌食になる人は増え続けるのかもしれない。

文=小里樹