埼玉ディス漫画『翔んで埼玉』について埼玉県民が魔夜峰央先生に聞いてみた<後編>
更新日:2015/12/25
これを機に新しい読者を開拓して、もう一回『パタリロ!』が注目されたらいいなと思います
約30年ぶりに復刊した、話題の埼玉ディス漫画『翔んで埼玉』。この衝撃的な作品が生まれたのは、作者の魔夜峰央先生が埼玉の所沢にお住まいだったことから、埼玉県民独特の鷹揚さと自虐性を肌で感じたことがきっかけだったという<前編>に引き続き、さらにディープな埼玉トークへと突入する<後編>。あの大ヒット作『パタリロ!』に関する秘密や、なぜ横浜へ引っ越したのかなどにも迫ります!
昔の作品はまったく覚えていない
ネット上では「『翔んで埼玉』って『パタリロ!』の魔夜峰央先生が描いてるんだ」というコメントもあるそうで、昔からのコアなファン層とはまったく違う人たちにも注目されています。
魔夜 私も今まで漫画家生活何十年かやってますけど、こういうことはなかった。そういう感覚です。なんなんだろう、っていうのって初めてで、右往左往してますよ。だから取材に来られても、何言っていいんだかわからないんだよなぁ(笑)。
魔夜峰央作品の初体験が『翔んで埼玉』という方が増えるでしょうね。
魔夜 これが売れて、この人『パタリロ!』って作品描いてるんだ、じゃあちょっと読んでみようかなってもう一回『パタリロ!』が注目されたらいいなと。読んだら絶対面白いと思ってもらえる自信はあるし、これを機に新しい読者を開拓できたらうれしいなって思うんです。だから火花じゃなくて、飛び火してもらいたいですねぇ。ここで火が点いたら『火花』どこじゃねぇぞ、っていう(笑)。『パタリロ!』には色んなパターンがあるし、続きものじゃないからどっから読んでもいけますから。
絵も古くなっていないというより、無駄のない線とベタ塗りなど密度のある先生独特のタッチは逆にスタイリッシュに感じますし、先生の娘さんによると生原稿は「ホワイトを使用していない」「98%くらい手描き(トーンを使ってない)」という凄まじい描き込み方ですからね! そしてストーリーもなんでもありで面白いし、37年前に始まった作品とは思えないです。実は僕の知り合いの息子さんで、小学生の男子が先生の大ファンなんですよ!
魔夜 それは教育上いかがなものか!(笑) ありがたいですねぇ。とにかく『パタリロ!』は1巻から普通に読めると思いますよ。これは不思議ですね。自分でもなんなんだろうって思います。
ところで長年埼玉に住んでいる僕が『翔んで埼玉』で一番笑ったシーンが、埼玉県民は県知事の写真を踏めないという「踏み絵のシーン」でした。その名前が「旗県知事」となっているんですけど、この漫画が描かれていた当時の埼玉県知事が畑和(はた・やわら)という方だったんです。こういう小ネタって、たぶん普通に読んでるとわからないと思うんですけど、知ってるとより面白いですね。
魔夜 うん、たぶんそう思って描いたんだろうね。『パタリロ!』なんかでもそういう小ネタがいっぱいあって、誰も気が付かねぇだろうなと思いながらもブチ込んじゃうんですよ(笑)。一度、パタリロの「クックロビン音頭のポーズ」(手を前に出して、片足で立ってズコーッとするようなポーズ)を、「これはヨガの不易のポーズというもので、とても体にいいんだ」って書いたんです…まるっきりウソなんですけどね。そんなのヨガにはないし、そもそも私はヨガのことなんてまったく知りませんもん。で、何十年かたってみると、みんな信じちゃってるという。そんな嘘八百ばっかり描いてますよ(笑)。でも書物に書くと、みんなホントのことだと思っちゃうんですよねぇ。
「パパンがパン」でお馴染みの、あの伝説のポーズが!(笑) 「クックロビン音頭」については『パタリロ!』のコミックスでご確認ください! ところで先生、『翔んで埼玉』は未完で、最後には謎の「埼玉デューク」という人物の名が出てきます。それは思いもよらない人だった、というあらすじも考えていたとありましたが?
魔夜 埼玉デュークに関しては「あのデュークさん」だろうと思うんですけど、どういう扱いにするつもりだったのかは全然覚えてないですねぇ。
伝説のスナイパーの、あのデュークですか…!
魔夜 ええ。でも続きを描く前に横浜へ引っ越しちゃったから。
ストーリーも全然忘れてらしたんですもんね。<前編>でお話しくださった『パタリロ!』の『FLY ME TO THE MOON』みたいな印象的な作品じゃないと話は覚えてらっしゃらない?
魔夜 はい。とにかく昔の作品のことってまったく覚えてないんです(笑)。
東京を飛び越して、横浜へ引っ越した理由とは?
横浜へ引っ越したために『翔んで埼玉』は続編が描けなくなったんですか。
魔夜 横浜市民が描いたら怒られるでしょ?
今なら大丈夫じゃないですか?
魔夜 逆に描けないなぁ、あんなヒドいこと。当時は自制心がなかったんだな(笑)。でも私は多いんですよ、未完の作品っていうのが。『アスタロト』って作品も未完なんですけど、それはそれでよしとしてるんです。その先描くつもりがない、っていう終わり方なんですよ。ちなみに『パタリロ!』は私が死ぬまで描き続ける予定です。
『翔んで埼玉』も未完ではありますけど、作品として成り立ってますからね。それにしてもなぜ所沢からわざわざ東京を飛び越して、神奈川県の横浜へ引っ越されたんですか? 埼玉県内で引っ越すという選択肢は?
魔夜 それはなかったですね(笑)。だって、埼玉から脱出するためだったんですから! まあ編集長、編集部長の威圧感に恐れをなして、できるだけ遠くへ行きたいっていうのがあったのでね。最初は東京で物件を探してたんですけど、たまたま横浜の不動産屋に紹介されたところを一目で気に入って、それでいきなり横浜へ飛んじゃったんです。それ以来ずっと横浜に住んでますよ。
横浜に住みながら埼玉の悪口を描いたら悪意があると取られるかもしれない、でも続編を描くだけのために所沢に戻るなんて恐ろしいマネはできない、と本書にありましたね(笑)。さて本書にはBLや謎の展開、アクション、さらには政治も絡んでくるという“魔夜節”が全開な表題作の『翔んで埼玉』に加え、SF作品であり、茨城ディス漫画でもある『時の流れに』、宇宙からやってきたジョナサンが謎の任務を遂行する『やおい君の日常的でない生活』という3本が収められています。そしてこの圧の強い衝撃的な表紙…最後に読者の方へメッセージをお願いいたします!
魔夜 ぜひ『翔んで埼玉』を読んでください。読んだらハマります。ついでに『パタリロ!』にもハマってください!(笑)
取材・文=成田全(ナリタタモツ)
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