SNSの“お金配ります”投稿は詐欺? 闇バイトの黒幕をどう追い詰める? 法では裁けない悪人を始末する復讐代行チーム〈ハングマン〉の暗躍【書評】
PR 公開日:2026/3/13

正直者が馬鹿を見る理不尽な世の中だ。毎日を必死に生きてきた人ほど、ほんの少しの判断ミスで足をすくわれる。ある一本の電話、あるバイトの求人、あるSNSの投稿……。日常にあふれた何気ないものが、いつの間にか地獄への入り口になる。その裏で糸を引くのは、顔も名前も出さない「指示役」。末端だけが動き、末端だけが捕まり、黒幕は暗がりの向こうで笑っている。
この世界には法律では正しく裁けない悪人がいる。そんな悪人たちを始末する復讐代行人〈ハングマン〉たちの物語に、どうして引き込まれずにいられようか。その物語とは、中山七里『ハングマン 鵜匠殺し』(中山七里/文藝春秋)。『祝祭的ハングマン』(文春文庫)に続くシリーズ第二弾だが、本作からこの世界に触れてもまったく問題はない。現代版の“必殺仕事人”ともいえる彼らの前に今回立ちはだかるのは、なかなか尻尾を掴ませない闇バイトの黒幕。姿の見えない支配者を相手に、ハングマンたちはどう戦おうというのか。
この物語は、次々と視点人物を変えて綴られていく。第一章「雛鵜」の主人公は、男子大学生の比米倉。復讐代行チームに所属し、情報収集を専門としているが、当然周囲はそんなことは知らない。大学に親しい友人はいないが、同じ学科の人当たりのいい後輩・久水だけは例外で、会えば軽口を叩き合う間柄だった。だが、金欠に悩み、割のいいバイトを探していた久水は、ある日突然、姿を消す。高級時計店の強盗事件のニュースを見た比米倉は、犯人グループの黒覆面の一人が久水ではないかという疑念を抱き、久水の行方を追うのだが……。
闇バイト、振り込め詐欺、投資詐欺……。視点が変わるごとにあらゆる詐欺事件が描かれ、そのどれもが一度はニュースで見聞きしたことがあるものばかり。そう、本作の7割を占めるのは、詳細で絶望的な特殊詐欺の顚末。さらには、よくSNSで見かける「抽選でお金をばらまく」というような怪しい投稿の裏側までえぐり出され、「こんな詐欺の手口もあるのか」と思わず息を呑む。もしかしたら「自分は騙されない」と言い切れる人ほど危ういのかもしれない。一歩間違えれば、自分だって被害者になり得る。その事実に、じわじわと追い詰められていくかのようだ。そして、被害者たちの末路を知るにつれて、胸が苦しくて苦しくてたまらなくなる。老若男女問わず、被害者たちはみんな悩み苦しみながらも毎日を懸命に生きてきた人たちだ。そんな真っ直ぐな人たちが、どうしてこんな悲惨な目に遭わなければならないのか。読み進めるほど、そんな憤りがふつふつと湧き上がってくる。
その怒りを抱くのは、ハングマンたちも同じだ。後輩が闇バイトに関わった可能性に直面した比米倉をはじめ、彼らはそれぞれ別の詐欺の現場を目の当たりにし、悔しさを噛み締めていた。そうして、ふとしたことから、それらの事件の裏に、実行犯とは別に、すべてを束ねる同一の指示役がいることを知るのだ。黒幕の名は、“ショウ”。闇に紛れ、警察さえも正体を掴めないその人物を、彼らは追い詰めていく。
「お前はいつかこっち側にくるヤツだと思っていた」
「世の中には利口と馬鹿しかいない。言い換えれば騙すヤツと騙されるヤツだ。どうせなら騙す側の人間でいた方が、人生楽しいじゃんか」
そう嘯く黒幕を、到底許せるはずがない。だが、ハングマンの暗躍に胸の内で喝采を送りながら、固唾を飲んで見守ってきたはずなのに、自分も復讐チームの一員になったような気分でいたのに、読後、心に残ったのは途方もない寂寥感だった。本書には、黒幕視点のパートもあるから、いつの間にか黒幕にも感情移入していたのかもしれない。だからこそ考えずにいられない。本当に悪いのは何なのか。誰もが加害者であり被害者になり得るこの世界にやるせなさを感じさせられてしまう。
本書のタイトルの「鵜匠」とは、もちろんこの事件の黒幕のことだ。鵜匠は、鵜の首に縄を巻き、逃げられないようにして獲物を捕らえさせる。鵜が飲み込んだ獲物は、吐き出させて奪い取る。闇バイトも詐欺も、その構図は驚くほど似ている。命令する者は姿を見せず、末端だけが手を汚し、罰を受け、人生を壊される。では、そんな支配者は、なぜその道を選んだのか。憎むべき相手のはずなのに、加害者の側にまで思いを巡らせることになるとは思わなかった。ミステリーとして面白いだけではない。今の社会の輪郭に触れたい人も必読。ただの痛快劇では終わらない、だからこそ現実感のあるこの本を、あなたにもぜひ。
文=アサトーミナミ
