「ときめき」で隠された性的消費のリアル。女性用風俗の搾取構造に迫るルポ『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』【書評】
PR 公開日:2026/3/24

私が初めて「女性向けの風俗がある」ということを知ったのは、たしか永田カビさんの漫画『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)が話題になっていた頃だった。その後ほどなくして、実写化もされた渡辺ペコさんの漫画『1122』(講談社)でも女性向け風俗が出てきて(こちらの作品ではレズビアン向け風俗ではなく、男性セラピストによる風俗店だった)、いよいよ自分でも使いたいと調べ始めるようになった。すると意外にも全国展開している企業などもあり、その規模に驚いた。驚いたというのは、心のどこかで「風俗は男性が使うもの」だと思っていたからだ。
3月24日に発売された『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』(中央公論新社)は、著者の藤谷千明さんが女性向け風俗に関わる人たちに取材をしながら、自身の体験をまとめたルポエッセイだ。離婚後に女性向け風俗を利用するようになった著者は、そのサービスに満足して推しのセラピストをリピートする一方で、「自分はセラピストを搾取しているのではないか」という後ろめたさも同時に感じていた。
お金を払っているのだから、それに応じたサービスを受けることができるのは当然の権利だ、と考えることもできる。しかし、その支払っている金額は、そのサービスを受けるのに妥当なものなのだろうか。そのサービスを提供する企業は、男性セラピストらの権利を十分に守ることができているのだろうか。企業に男性セラピストがいいように搾取されていた場合、お金を払ってサービスを受けた客である自分もまた、その歪な構造に加担した一人になるのではないか? 著者の推しのセラピストも「昼の仕事が決まった」と言って、風俗店を辞めている。利用する女性たちの欲望と、倫理的な正しさの間に横たわるもの、それを著者は「書きたい」と感じるようになり、今回の書籍へとつながっていく。
書籍に登場するのは、女性用風俗で働く男性セラピストや女性セラピスト、運営しているオーナー、過去に働いていたスタッフをはじめ、女性用風俗を扱った漫画『東京宵待シンデレラ』(集英社)の著者東ねねさん、「ホス狂い」ライターの佐々木チワワさんなど、多岐にわたる。さまざまな立場から語られる「女性用風俗」に関する話を読みながら、その実態を知り、今まで語られてこなかった男性セラピストの心中についても思いを巡らせるようになる。
以下は、佐々木チワワさんとの問答の一節だ。
多くの女性は自分のルックスをジャッジされたり、心無い言葉をかけられたりして、傷ついた経験が何度もあると思います。なのに、ホストやセラピストに対しては平気で「ブス」なんて言葉を投げる人も、まあ、いますよね。
「それに、『ときめき』とか『ロマンス』だとか、恋愛の言葉で性的消費をくるんでしまう構造もあると思うんですよね。(中略)“相手がしてくれたこと”って実際は自分が“させている”んだってことに無自覚なケースも少なくない。こうして見ると、“消費する側”のリテラシーについて考えてしまいます」
その前後の文脈も含めて読みながら、私が「風俗は男性が利用するもの」と思っていたのは、心のどこかで「お金を払ってでもヤりたいと思うのは男性側」であって、女性は常に「性的に興奮される側」だという偏見があったからだ、ということに気づいた。自分だって使いたいと欲望して、いくつも風俗店のサイトを調べていたはずなのに、自分の性欲にはあまりにも無自覚だったことに驚いた(結局散々調べて利用はしなかったのだが、それも多分「女性がお金を払ってまで性的なサービスを受ける必要ってあるのかな(だって、ヤりたいのは男性でしょ?)」という、とても傲慢な考えがあったような気がする)。
この書籍には、性的に消費される男性セラピストの存在や、「お客様」になった途端に理不尽になってしまう女性客の無自覚な欲望など、女性用風俗の語られてこなかった一面が描かれている。その中で、著者は何を思い、何を書きたいと思ったのか。どれだけ誠実であろうとしても、構造上自分が消費する側になってしまうジレンマを抱きながら、それでも最後まで書ききった著者の渾身の一冊である。
文=園田もなか
