ダムに沈んだ村にまつわる呪いの伝説。凄惨な死体で発見された仲間の死の真相を探る、青春狂愛ミステリー『愛した人を調べないでください』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/4/22

愛した人を調べないでください
愛した人を調べないでください(三浦晴海 / 双葉社)

 誰にでも、大なり小なり秘密はある。その秘密を暴くとき、不利益をもたらされるのは暴かれる側だけではない。暴く側もまた、同時に何かを失う。「人間」を調べるというのは、それほどに罪深いことなのだろう。

『廃校教師』(角川ホラー文庫)、『なぜ「あしか汁」のことを話してはいけないのか』(宝島社)など、数々のホラー作品を手掛ける三浦晴海氏が新たに送る作品は、複雑に絡まりあった人間関係がもたらす凄惨な事件を描く。タイトルは、『愛した人を調べないでください』(双葉社)。

 本書の語り手である二児の母の咲月は、あるニュースをきっかけに、過去に置き去りにした謎に再び向き合うことを決意する。その謎にまつわる事件において、咲月のかつての仲間が二人、命を落としていた。

 咲月が大学2年の頃、大学のアウトドアサークルでキャンプが計画された。当時のサークルメンバーは、城本純子、絵崎康二、棚村祥、宇佐眞知矢、江藤楓、茶垣美鈴、花岡景太郎、そして小塚咲月。以上8名が、本書の主な登場人物である。

 リーダー格の純子は、常日頃から悪ノリしやすい性格で、渇水したダム底の廃村でキャンプをすると言い出した。キャンプ場に選ばれた翡翠川ダムの底から現れた村は、森恒村という名前で、この地に流れ着いた落ち武者が作った村だと言われている。落ち武者に由来する「呪いの伝説」を利用し、純子は「肝だめし大会をしよう」と提案。だが、これが運命の分かれ道であった。

 実は、この肝だめし大会にはある目論見が仕組まれていた。先輩の康二に思いを寄せる咲月の恋心を知り、二人の距離を縮めるために純子が計画したのである。そもそも、キャンプ自体の目的が、咲月の片想いを成就させるためのものだった。しかし、肝だめしの途中、眞知矢とペアを組んでいた楓が突如姿を消してしまう。みんなで手分けをして捜索し、ようやく見つけたものの、すでに楓は事切れていた。しかも、楓はただ殺されただけではない。血まみれの裸の体は祭壇の上に横たえられ、切断された頭部が腹部に乗せられた状態で発見された。当然のことながら、ほとんどのメンバーが取り乱しパニックとなった。

肝試しルート
肝試しルート

 物怖じせず、クールな性格の祥は、「さっさとここから退散して警察に通報しましょう」と提案した。ダムの底は電波が届かず、現場から警察に通報するのは不可能な状況であった。冷静になってみれば、祥の提案は至極真っ当なものだとわかる。しかし、咲月は頑なにその提案を拒否した。自分の恋愛成就のために、かわいい後輩を事件に巻き込んだ。その負い目が、判断を曇らせたのだろう。また、事件現場に居合わせた全員に嫌疑がかけられるのは免れない。思いを寄せる康二や親しい純子の就職活動への影響も懸念し、咲月はみんなの行動を調べ、事態の把握に努めるべきだと力説した。康二が咲月の意見に肩入れする形で、素人による現場検証がはじまった。

 結論からいえば、この判断は大きな誤りであったと言わざるを得ない。祥の提案通り、さっさと現場を立ち去っていれば、少なくとも2件目の事件は回避できた。だが、それもまた結果論である。凄惨な死体を目の当たりにして、冷静でいられる人間は少ない。ましてや、それが親しい相手ともなれば尚更だ。

 楓の死は、呪いによるものか。はたまた人間の手によるものか。当時の記憶をノートに書きつけながら掘り起こす“現在の”咲月は、ところどころに引っかかりを覚えながらも事件の概要を振り返る。サークルメンバーの人間関係にも改めて目を向け、当時は気付けなかった関係にたどり着いたことで、咲月の中である仮説が生まれた。さらに真相を深掘りする過程で、咲月の思いは本書のタイトルに到達する。

“愛した人を調べてはいけない”

 タイトルの意味を知ったとき、戦慄を覚えるのは私だけではないだろう。愛情と憎しみは表裏一体で、思いはときに執着へと変貌する。思い通りの愛情を手に入れるためなら、手段を選ばない。そんな人間が実在する世の中で、私たちは何を信じ、何を「見ない」選択をするのか。秘密を暴いた先に待っているのは、必ずしも“爽快”とは限らない。暴いた真実に再び蓋をする己の手は、もう元には戻らないのだ。

 本書が語りかける“真相”は、人間の業を色濃く映し出す。直視できない私は、薄目を開けて、その情景を見た。凄惨な死体よりも、呪いの伝説よりも恐ろしいものが、そこにはたしかに鎮座していた。

文=碧月はる

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