気づくこと、知ろうとすることが、世界を広げる――トゥレット症の少年の孤独と友情を描く『ぼくのいうことを、きかないぼく』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/5/14

ぼくのいうことを、きかないぼく
ぼくのいうことを、きかないぼく(柴野理奈子:作、中田いくみ:絵/ポプラ社)

 授業中でもテスト中でも、突然目をぎゅっとつぶったり、首を振ったり、肩をすくめるような動作を繰り返したり、奇声をあげたり、鼻をすするような音を出したり……。そんな子がクラスにいたら、我が子は何を思うだろうか。我が子には、どんな相手とも自然に関われる人に育ってほしい。けれど実際には、子どもは「フツウにできない」友だちとどう接すればよいのかわからなくなってしまうかもしれないし、親としてもそうだ。けれど、もしその子が、その行動を止めたくても止められずに苦しんでいるのだとしたら。そういう病気があるということ、そして、そのつらさを、私たちは知る必要がある。

ぼくのいうことを、きかないぼく』(柴野理奈子:作、中田いくみ:絵/ポプラ社)は、勝手に動く自分の身体に悩む少年と、友だちとの絆を描く児童書。この少年が抱えるのは、トゥレット症。本人の意思に反して身体が動いてしまったり、声が出てしまったりする神経発達症だ。「あれ、もしかして、あの子って」「電車で見かけたあの人もそうなのかな」――そんなふうに思い当たる人もいるかもしれない。芸能界でもこの症状を抱えている人は多く、海外では、歌手のビリー・アイリッシュも、トゥレット症であることを公表している。だが、本書の魅力は、トゥレット症について知ることができるというだけではない。知ることをきっかけに、相手を理解しようとする過程そのものが描かれ、それが胸を打つ。自分では止めたくても止められないつらさ。まわりにわかってもらえない苦しみ。戸惑いながらも相手を知ろうとする友だちのまなざし。そうしたひとつひとつを、この本では自分事のように体験できるのだ。

 小学6年生の駿は、1年以上前から自分の意思とは関係なく、身体が勝手に動いたり、声が勝手に出たりしてしまうことに悩んでいる。クラスでも家でも腫れ物扱いされ、叱られてばかり。だが、1年生の頃に仲が良かった幼なじみ・遥斗や、小さなことは気にしないワタルと学習発表会で同じ班になったのをきっかけに、駿の日常は少しずつ変わっていく。

理解されない駿の孤独

 まず、胸に迫るのは、制御できない自分の身体に悩みながらも、それをまわりに伝えることができず、ヘラヘラと笑ってごまかす駿の姿。その苦しみは想像を絶する。駿には居場所がない。クラスメイトたちは不可解な言動を取る駿に対し、「ふざけないで」と迷惑そうに接するし、大人だって駿に向ける視線は冷たい。先生は険しい顔で注意し、親だって「どうしてフツウにできないの」と責める。「勝手に首が動くんだ。のどが、鼻が、勝手に音をたてるんだ」——そのことを理解する人はいない。

「もし、自分が駿のそばにいたら」と考えると、果たしてこの子のために手を差し伸べることができただろうか。多分トゥレット症のことを知らなければ、それはできない。我が子とその子が同じクラスにいたら、距離を置いてほしいとさえ思ってしまうかもしれない。そう考えると、胸が苦しくてたまらない。知らないということ、知ろうとしないということの残酷さに、はっとさせられる。

遥斗が見つけていく「本当の姿」

 また、この物語は、駿だけでなく、遥斗の視点でも描かれているのがいい。遥斗は、駿と同じ班になったことを、最初は「げっ」と思っていた。だって、駿は、1年生の頃とは、まるで雰囲気が変わってしまったと思っていたからだ。けれど、駿と一緒に過ごすうちに、遥斗は、駿の本当の姿に気付かされていく。駿は物知りで、絵が上手。調べ学習だって、真面目にやろうとしている。それなのに、どうして、すぐにふざけてしまうのだろう。どうして落ち着きがなく、突然変な声をあげるのだろう。

 疑問に感じた遥斗は、駿の症状はトゥレット症ではないかと疑うようになる。駿もまた、スマホで自分と同じように声や身体が勝手に動く人の動画を見つけ、トゥレット症という神経発達症を初めて知る。この症状に名前がついていることに安堵する一方で、大人になっても治らない可能性があることを知った駿は……。

すれ違いの先に育まれる友情

 クライマックスは、涙なしには読み進められない。悩み、すれ違いながらも、少年たちは本当の友情で結ばれていく。その姿に胸が揺さぶられ、少年たちのまっすぐな思いに、思わず涙がこぼれてしまった。

「自分が駿だったら」「遥斗だったら」「駿の親だったら」「遥斗の親だったら」――この物語は、子どもも大人も、いろんな立場で「もし自分だったら」を考えさせられる。児童書だが、子どもだけが読むのはもったいない。親子で読み、親子で知りたいことがここには詰まっている。

知ろうとすることの大切さを伝える一冊

 大切なのは、まず知ること。目の前の子が、何を考え、何に悩み、何に苦しんでいるのかを、知ろうとすることから始めなければならない。読書感想文の課題図書としてはもちろん、道徳の授業などで読むのもふさわしい。学校で読まないならば、絶対に家で読ませたい。自分の中にあった偏見や「いやな気持ち」に気付かされ、少年たちが育んでいく友情の尊さに、思わず胸が熱くなる。

 知らなかったものを知り、わからなかった相手を理解しようとするとき、見える世界は少しずつ変わっていく。そんな温かな体験ができるこの一冊を、ぜひともより多くの人に手にとってほしい。

文=アサトーミナミ

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