落ちこぼれから途上国の医師へ。子どもたちを救う吉岡秀人医師の生き様に迫る『小児外科医 吉岡秀人物語 ボクが行かんと誰が行く』【書評】
PR 公開日:2026/6/24

『小児外科医 吉岡秀人物語 ボクが行かんと誰が行く』(高木香織/講談社)は、吉岡秀人医師の人生を描いた一冊だ。前半は挿絵も交えた絵本のような形式で展開しており、後半は実際の写真も交えながら、より具体的なエピソードが語られている。内容はノンフィクションでありながら、子どもから大人まで読みやすいよう配慮されているのが特長である。


吉岡氏は中学生の頃に見たテレビ番組がきっかけで、途上国で苦しむ人々の役に立ちたいという夢を胸に抱く。しかし高校時代は勉強よりも遊びを優先し、医師になろうと決めたのは、別の学部に落ちた浪人時代。受験勉強を始めるのが遅く、医学部入学への道のりも遠かった。そんな「落ちこぼれ」でも夢をあきらめなかった吉岡氏は、無事に医学部入学を果たし、30歳でミャンマーに降り立つ。そして現地で治療を受けられない子どもたちを救うべく、無償で医療を提供し始めた……。
本書を読んで、吉岡氏の志と生き様に感銘を受けた。子どもの頃に見つけた夢を実現するため、スタートが遅れても医師になろうと努力を重ねたことに驚く。ミャンマーに拠点を置いてからは、日本に比べて医療行為が難しい環境にもかかわらず、一人でも多くの子どもを助けようと奮闘する。無償で医療を提供し、自身の身なりや生活を顧みない吉岡氏は、現地で「貧乏センセイ」と呼ばれていたそうだ。当時のミャンマーの人々から見れば、日本は裕福な何不自由ない生活ができる国である。恵まれているはずの日本人が、ひたすら命を救うことに専念しているのだから、そう言われても不思議ではない。
登場するエピソードのなかで印象に残っているのは、一度ミャンマーの診療所をたたんで日本に帰国し、小児外科の技術を学び直したことだ。病に苦しむ人たちがいる現地を一時でも離れることは、吉岡氏にとってとても大きな決断だったと思う。もっと技術があれば救えた命があったという後悔が、覚悟につながったのかもしれない。それは、未来の子どもたちを救うための投資でもあった。

吉岡氏の姿は、多くの読者の胸を打つものだろう。夢を努力して形にしていくこと、利他の精神をもって人々に尽くすこと、学び続けること。どんな道を志すとしても、自分らしく生きていくために必要な力やマインドについて考えるきっかけをくれる。
吉岡氏は国際医療NGO「ジャパンハート」を立ち上げた人物でもある。各国固有の文化を尊重しながら患者に寄り添う、途上国の役に立ちたい人なら誰でも参加できる団体だ。そんな紹介を読んでいると、本書は将来ボランティアに興味を持つかもしれない子どもたちのために書かれた本という印象も受ける。ほぼすべての漢字にふりがなを振ってあり、絵や写真などの視覚的な素材も豊富だ。吉岡氏の人生や考え方、将来の選択肢を考えるきっかけとして、本書が未来ある子どもたちのもとに届くことを願う。
文=宿木雪樹
