巨匠タランティーノは少年時代、いかに映画の沼にハマったか? 7歳で観た映画は『ジョー』と『パパはどこ?』の2本立て【書評】
PR 公開日:2026/7/9

映画にそこまで詳しくなくても、「タランティーノ」という映画監督の名前は、誰しも聞いたことがあるのではないでしょうか。1990年代前半の出世作『レザボア・ドッグス』『パルプ・フィクション』は50~60代ぐらいの読者の方には懐かしく感じ、日本も舞台の一つになっていて昨年4Kリマスターされた2000年代初頭の「キル・ビル」シリーズの鮮烈な描写は10~20代の若者が今にも再発見しそうです。
世代をまたいで愛される世界的なヒットメーカーでありながら、庶民派で映画オタク的な発言や振る舞いが注目されるタランティーノ自身が書いた『おれの映画人生』(クエンティン・タランティーノ:著、鈴木 恵:訳/文藝春秋)は、懐古ムードの「名作の舞台裏」的な作品ではありません。一人のアメリカ人の少年がいかにして底なしの映画の沼へとハマっていったのかの大長編(約480ページ!!)です。
本書を読み始めると色々な作品名・人名をメモりたくなりますが、ほどなくして分量が多すぎて「メモが追いつかない、索引はないのだろうか」と心配になります(約20ページの索引があるのでご安心ください)。
タランティーノの映画好きエピソードの数々
映画好きの親のもとに育ち、幼少期にテネシーからカリフォルニアに引っ越すという、映画英才教育的な環境が整っていたタランティーノ。1970年代はじめのハリウッドでユニークな立ち位置にあったティファニー劇場に、7歳のタランティーノが足を踏み入れるシーンから物語は始まります。
その年、七歳のおれは初めて〈ティファニー〉に映画を見にいった。母コニーと継父カートに連れられて、ジョン・G・アヴィルドセンの《ジョー》(70)とカール・ライナーの《パパはどこ?》(70)の二本立てに行ったのだ。
ちょっと待った、おまえ、七歳で《ジョー》と《パパはどこ?》の二本立てを見たのか?
そう、見たんだ。
極々私的な記憶から、アメリカ社会の縮図とも言える映画館のリアルな空気感が克明に描かれていて、その時代が見えるような感触がします。そのため、圧倒的な情報量に対して読者のページをめくる手がひるんでしまうことはさほど起こり得ないように思えます。
「“あの”タランティーノもそんなことをしたり、思ったりするのか」というエピソードが続きますが、「電話帳」(今の10~20代にはこの存在自体が衝撃的なのではないでしょうか)に記載された同姓同名の「ジョン・フリン」に電話をかけまくり、ついに本人(1977年のハードボイルド名作『ローリング・サンダー』等で有名)に電話をつなげた瞬間の歓喜にはつい微笑ましくなってしまいます。
それまで映画監督と話なんかしたことはなかった。まして自分のお気に入りの映画の監督となど。だからおれは自己紹介して、映画監督についての本を書いているんですが、あなたのお仕事についてインタビューさせてもらえませんか、と尋ねた。フリンはOKしてくれ、時間を決め、自宅におれを招いてインタビューを受けてくれた。
すげえ、映画監督の家ってのがどんなところか見にいける!
同時代をリアルタイムで経験していた読者の方にとってもちろん本書は面白いかと思いますが、どちらかというとデジタル・リマスターされた映画を鑑賞するような心地で、若めの読者がより新鮮な印象とともにエンジョイできるのではないかと思います。ロバート・デ・ニーロ主演の1976年の名作『タクシードライバー』など、熱量をこめて語られている映画を鑑賞する「さらなる楽しみ」もあってとてもおトクなので、ページ数にひるまずにぜひ手に取ってみてください。
文=神保慶政
