死体発見の40%は犬の散歩中? 個性豊かな愛犬家たちが連続殺人に挑む『ドッグウォーカー探偵事務所』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/8/30

ドッグウォーカー探偵事務所
ドッグウォーカー探偵事務所(マイケル・ホーガン:著、林啓恵:訳/竹書房)

 犬を飼ったことがある人なら、犬という存在がいかに人との関わりを作ってくれるかを知っているんじゃないだろうか。散歩に出れば知らない誰かが話しかけてきたり、挨拶を交わす顔見知りができたり…ご近所犬が集合して井戸端会議なんてこともよくある風景だし、好きな犬種のサークル活動なんかもある。とにかくペットを超えた「相棒」として、飼い主自身の世界を広げてくれるのが犬という存在だ。

 新刊『ドッグウォーカー探偵事務所』(マイケル・ホーガン:著、林啓恵:訳/竹書房)は、そんな犬の「コミュ力」(?)を絶妙なスパイスにしたコージーミステリー。なんと犬が事件に対する“引き”が強すぎて、「散歩させている人を死体の第一発見者にしてしまう」というアクシデントからスタートするのだ(ちなみに本書の帯によれば、予期せぬ死体発見の40%は、犬の散歩中に起きているとのことだ)。

 その第一発見者こそ、この物語の主人公・チャーリー。ロンドンでグラフィックデザイナーをしていたが、高齢となった母親の一人暮らしを心配してイギリス郊外の町・フラムストーンに戻ってきた。とはいえ地元ではデザインの仕事はあまりなく、メインの仕事は犬の散歩の代行業。愛犬のスタッフォードシャー・ブル・テリアのルビーの散歩中に、ジャック・ラッセル・テリアのタンブルとラフを散歩させていたカフェの店主・テスと知り合い、それから多くの愛犬家が集う彼女の店に顔を出すようになった流れで散歩代行を請け負うようになったのだ。長く町を離れていたチャーリーには地元の知り合いがおらず、犬を通じてテスの店「コスタルコーヒー」で築いた人間関係は、いまのチャーリーが所属する大切なコミュニティになっている。

 さて話をストーリーに戻そう。チャーリーが発見した死体は元刑事で、しかも殺しによるものだった。動転したチャーリーはテスに助けを求め、興味津々のテスが素人探偵さながら現場を観察しているところに警察が登場。ここから話の主体は警察になるのかと思いきや、テスと同じく興味津々の「コスタルコーヒー」に集う犬の散歩仲間(ドッグウォーカー)たち――犬の散歩代行業コンビのヴィヴとスー、引退した弁護士のマルコム――が協力して散歩の中で情報収集しながら事件を追っていく。ただし事件はひとつでは終わらない。死体発見の1週間後に再び警官が何者かに襲われ、さらなる悲劇が――。

 愛らしい犬たちと個性的なキャラの飼い主たちが、警察に先んじる勢いで事件解決に挑む姿がとにかくユーモラス。警察から捜査の進捗を聞き出して捜査のヒントにしたり、犬の散歩を理由に現場検証を重ねたり、散歩中の雑談で被疑者の身辺調査をしたり…ヒヤリとする場面があってもつきすすむ素人探偵ぶりは、さすがミステリー大国・イギリスの住人たちだ。会話の随所に「ポワロ」や「マープル」などミステリーをもじったジョークがちりばめられる独特のムードに最初こそとまどうが、読むほどになんだかクセになってくるのも面白い。事件をきっかけに絆が深まるチャーリーと愛犬家仲間の心の交流も印象的だ。

 果たして平和な町の悪夢は無事に解決するのか。あなたもドッグウォーカー気分で謎解きに挑戦してはいかがだろう?

文=荒井理恵

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