仕事、子育てのイライラを手放す! 他人をほめるだけで「自分のストレス」が減る。『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』著者:加藤光一×監修:坪田信貴対談<その3>

ビジネス

2018/2/5

「ほめちぎる」教習で、1万人の若者を伸ばし、合格率や事故率を劇的に改善。一流企業、大学、PTAまで、全国から注目を集める「ほめる人材育成」のノウハウをまとめた『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』(KADOKAWA)。ほめることは、人を伸ばすだけでなく、マネジメント側の心理的負担も減らすことが分かってきている。「叱る」場所だった教習所が、どうやってほめる場所に変われたのか。三重県の南部自動車学校代表で著者の加藤光一さんと、「ビリギャル」の著者でもあり、本書の監修に携わった坪田信貴さんの対談第3回をお届けする。

左:著者の加藤光一さん、右:監修の坪田信貴さん

■「教習所=怒られる」のイメージを取り払うことから、会社改革がスタートした

坪田信貴さん(以下坪):まず最初にビックリしたのは、「こんな教習所があるんだ!」ということですね。個人的には教習所って、指導員の人がずっと怒っている…というイメージしかなくて。

加藤光一さん(以下加):生徒の親御さんの世代、ちょうど坪田先生くらいより上の世代では、教習所で怒られてきた方がほとんどですよね。イメージのよくない人が多いも当然だと思います。

:教習では、ずっと怒られないといけない…というのはどうなんだろう、と長年思っていました。怒られると人間の心理として、「怖い」「自分が信じられない」という感情が出てきてしまうので、運転のたびに緊張してしまうし、自信も持てなくなる。

:はい、主体性が少なくなってしまうこともあります。南部自動車学校では、2013年から「ほめる」指導を開始したのですが、2、3ヶ月もしないうちに、生徒がガラッと変わりました。始める前には「命を預かる運転なのに、厳しく指導しないで大丈夫か?」というご意見もいただいたのですが、実際には免許の合格率も上がりましたし、卒業生の事故率も下がったんです。

:ほめることの効果はそんなにすぐ表れたんですね。すばらしい! 私は、TOYOTAや電通など、企業の社員研修をお手伝いさせていただくことが多いんですが、南部自動車学校で行われている「ほめる」教え方は、すべてのビジネスシーン、そして子育て世代の親御さんに応用できるものじゃないかと考えています。心理学や統計的な面から見ても、実際のところ「叱る」指導にメリットはほとんどないと、私も常々思っています。

■ほめ上手な人は、仕事でも人生でも、ストレスが少なくなる


:「ほめる」を導入してから生徒の満足度が格段に高くなりました。免許の合格率が上がったのも嬉しかったですが、指導について「とてもよい」を選んでくれる生徒が95%以上になったんです。しかし、経営者としてそれ以上に驚いたのは、指導員の満足度が高くなったことでした。始める前は思ってもみなかったんですが、「ほめる」を導入してから、指導員から仕事がラクになった、という声が非常に多く聞かれるようになったんです。

:生徒だけでなく、指導員の方々にもよい影響を与えていた。

:はい。実は、「ほめる」を始めると発表した時、みんな口には出しませんでしたが、ベテランたちほど「こんなんようせんわ」という顔をしていました。それはそうですよね。突然、これまでのやり方を全部捨てて、よくないとされてきたやり方に変えろといわれたわけですから。しかし、研修を開始して1ヵ月目くらいからみんなの表情が明るくなってきて、不満げな空気も解消されていきました。その後、実際に「ほめる」指導をするようになってからは、ベテラン指導員ほど「よかった」という声が多くなったんです。

:それは興味深いですね。イメージ的には、いままで長くやってきたやり方を変えなければならないベテランの人ほど、順応するのに時間がかかりそうに思えますが。

:私もそう思っていました。ところが、ベテラン指導員たちの話を聞いてみると、どうもこれまでの「できないところを指摘する」というやり方がストレスだった、ということがわかってきた。「どうしてこんなことができないんだ」とイライラする、「自分の教え方が悪いのでは」と考えてしまう、そうやって年中怒っているから生徒と親しくなることもなく、卒業の時に「先生のおかげで」なんて声もかけてもらえない。こんなことが積み重なって、大きなストレスになっていたんです。

■他人を叱ると、脳は自分自身を叱っていると勘違いしてしまう


:怒ること自体がストレスを生み出すことは、実は脳科学的にも根拠があるんですよ。人間の脳は「自分が発する言葉の主語を理解していない」といわれています。自分が相手を叱っているとき、脳には「相手」と「自分」の区別がない。だから叱る言葉は、実は自分を痛めつけることになる。叱れば叱るほど、自分もつらくなるわけですね。

:最初はいやいや「ほめる」指導をしていたベテランたちも、実際ほめてみたら「あれっ? こんなにストレスなく指導ができるの?」と気づきはじめた。これまで生徒がついてこなくて悩んでいたのが、言ったことを素直に受け入れてくれるようになるし、めったに言われたことのなかったお礼の言葉までもらえてしまう。これまで辛い思いを長くしてきたベテラン指導員ほど、「ほめる」の有効性が実感できたんですね。

■部下が「やる気がない」のではなく、上司が「やる気をひきだせていない」可能性あり

ほめる教習は経済新聞などから取材されるなど注目を集めている

:最近企業の人事担当の方や親御さんに向けて、講演させていただくことも増えました。その中でよくご相談されることに、怒られ慣れていない、打たれ弱い生徒が多くなってきている、ということがあります。

:私も2000年以降に生まれた子たちは、ちょっと感覚が違うな、と感じます。でも、ある意味当たり前のことだと思います。不景気が続き、終身雇用も事実上なくなって、年金ももらえるかどうか怪しい。「辛いことでも頑張れば、いつか報われる」という考え方が、もはや常識ではない時代になってきていると感じます。

:昔、指導員のストレスが目につくようになって、教習所の雰囲気が悪くなっていた時期があったんです。その原因を探ろうと面談をしたら、指導員はみな「生徒の質が下がった」「生徒のやる気がなくなった」と言っていました。しかし、調査を進めていくうちに、生徒の質ではなく、生徒のモチベーションが昔と違ってきていることに気がつきました。

:「質」ではなく「モチベーション」?

:昔は車に乗るとカッコいい、楽しいということが、免許を取るモチベーションになっていました。しかし、最近は「免許がないと就職できないから」とか「暮らすのに必要で」といった、「しかたなく免許を取る」生徒が増えています。むしろ、多数派になりはじめている。これは今後、教え方、指導員側を変えないとまずいことになる、と思いました。

:実際のところ、現実社会だってモチベーションにあふれた人間ばかりではないですよね。仕事も勉強も、「やる気まんまん」な人のほうが少ない(笑)。僕は仕事でも子育てでも、「スパルタで一部のエリートを育てる」時代は終わり、「みんなのモチベーションの底上げができる」人のほうが、絶対に需要があると思います。

:そうですね。「あいつはやる気がない」と批判するのは簡単ですが、むしろマネジメント側が、「やる気を引き出す」言葉がけが出来るかどうか。

:ほめるのが下手な人は、自分が正しいという思い込みが強く、減点方式の言葉が口グセになっていることが多い。「どうしてこんなことができないんだ」「そんなの常識でしょ」「何回も言ってるよね…」こんな言葉がつい出てくる人は、要注意だと思います。そう思ったときに、「できていること」に目を向けるだけで言葉が変わると思います。

:教習所でも「よく考えたね」「頑張ったね」など、成長や努力を認める一言を投げかけるようにしています。これだけで相手はどんどん変わってくれます。人間は、本当にほめると伸びるんだな、と実感できる瞬間です。ほめることは、決して「おべんちゃら」ではない。相手を「見守り」、「認める」作業なんです。今日はありがとうございました。

撮影:神保達也
原稿:能登雄一

【第1回】「ほめ」で雰囲気が明るくなるだけで、職場の売り上げ3倍に!
【第2回】仕事ができる人が、必ずしもよい上司になれない理由

【プロフィール】
●加藤 光一:かとう・こういち

南部自動車学校代表。少子化、車離れで生徒数が減っていくことに悩み、実習プログラムの改変を決意。ほめると、モチベーションがあがり、結果がよくなることを実感した経験から、教員に「ほめ達検定」を受けさせ2013年2月「ほめちぎる教習」を実施したところ、大評判に。生徒数を3割増・事故者率減少という目覚ましい効果を上げる。現在では全国の教習所をはじめ、一流企業やPTA、大学など異業種からも視察が訪れ、南部自動車学校は「一般社団法人 日本ほめる達人協会 三重支部」としても活動している。

●坪田信貴:つぼた・のぶたか
坪田塾、塾長。これまでに1300人以上の子どもたちを個別指導し、心理学を駆使した学習法により、多くの生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。経営者として、全国の様々な上場企業の社員研修や講演会に呼ばれ、15万人以上が参加している。著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』が120万部のミリオンセラーに。近著の『人間は9タイプ』も累計10万部を突破。第49回新風賞受賞。