100年以上前に絶滅したニホンオオカミは、まだ生きているかもしれない?

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公開日:2017/5/21

『ニホンオオカミは消えたか?』(宗像充/句報社)

 ニホンオオカミと言えば、誰もが一度はその名を耳にしたことがあるだろう。そう、日本における絶滅動物の代表格だ。100年以上前に絶滅したとされるその動物が、実はまだどこかで生きているのではないか? そう述べているのが『ニホンオオカミは消えたか?』(宗像充/句報社)だ。2012年6月に、本書著者の知人がオオカミらしき動物と遭遇したという話から本書は始まる。その秩父往還の国道299号線での遭遇の談をきっかけに、著者はオオカミを追うようになったのだ。

 そもそも、ニホンオオカミとは何なのだろうか? と言うのも、100年以上前に絶滅したニホンオオカミには満足な生存時の写真も映像もないし、もちろん他の地域に生存した個体が居るわけでもない。ニホンオオカミが生きていた時代から生きている人、つまりニホンオオカミを生で見た人だって、もうほとんど居ないだろう。ニホンオオカミとはどういう動物なのか? それ自体が、すでにかなりの難問となってオオカミ探究者の前に立ちはだかっているのだ。ただでさえ、オオカミは犬とよく似ている。それに、近縁種であるタイリクオオカミやエゾオオカミとの違いも検討しなければならない。どういう特徴を持った動物をニホンオオカミと呼ぶのかと言えば、1995年に著された『絶滅野生動物の事典』の説明が本書で引用されている。《形態》体長95~114センチ、尾長30センチ、肩高約55センチで、中型の日本犬ほどである。胸郭は犬のそれよりも幅が狭く、深い(上下の高さが高い)と言われている。(略)《特徴》オオカミ類中最小の種のひとつで、特に四肢と耳介が短い。しかし、四肢の長さは長脚の犬と大差なく、日本在来の犬よりはるかに長い。すなわち、前肢の肘までの高さは、肩の端より座骨の端までの長さの2分の1位。体毛は長く、タン色を帯びたベージ色、顎・背・体側・尾の毛は先端がわずかに黒い。上下唇と頬は白色に近く、耳介後面は赤茶色、前膊下部前面に焦茶色の斑紋がある。頭骨は短小で吻は広い。と、こう書き連ねられればニホンオオカミのイメージが大体はできあがると思う。だが、ここまで書いてもニホンオオカミの定義は未だ厳密にはならない。その理由のひとつが、オオカミと山犬の違い・区別である。昔の日本では、オオカミを山犬と呼ぶこともあったし、現在ではオオカミと山犬を区別して呼称している。そのうえ、オオカミと山犬を別種とした場合、両種の混血個体の存在についても議論しなければならない。とにかく、複雑なのだ。オオカミと山犬を区別しないのであれば、山を生息域にする犬を「オオカミだ」と主張することもできるし、区別するのであれば山犬をして「オオカミだ」という主張は退けなければならない。現在、ニホンオオカミのはく製は3体が現存しており、この3体にも別々の学名が付けられている。ニホンオオカミは、その定義からしてかなりの難敵なのだ。

 ニホンオオカミが生き残っているとした場合、彼等はなぜ生き残ることができたのだろうか? その可能性のひとつが、山犬との交雑だ。オオカミの数少ない生き残りが、子孫を残すため繁殖相手として山犬と交配し、子孫を残していったとするならば、現在に至るまでニホンオオカミは(純血種でないにしても)その血を受け継がせている可能性がある。なお、こういった事例はもともとはエチオピアオオカミで確認されたものであり、ニホンオオカミで同じことが起こったと断定するには、両種のオオカミが同一か極めて近い社会構造と生態を持っていたことを証明しなくてはならない。だが、日本でも野外にメス犬を繋いでおいて、オオカミと交配させることで猟犬を作る話がしばしば残っていることから、あながち机上の空論ではないとも思われている。

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 ちなみに、著者の知人が遭遇した動物はその地域に生息する秩父野犬ではないかとも指摘されている。秩父野犬とは、ニホンオオカミに類似した点を多く持つ動物の通称だ。だが、この時目撃された動物は、毛並みや耳の形こそそっくりだが、体はこの秩父野犬よりも大きく、むしろエゾオオカミのはく製に大きさは似ていたという。ニホンオオカミはまだどこかに居るのか、それともやはりもう居ないか。それが明かされる日が待ち遠しいものである。

文=柚兎